会長声明・決議
少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明
選挙権年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる公職選挙法の改正案が可決、成立した。同法の附則では「少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」と規定されており、自由民主党は「成年年齢に関する特命委員会」を設置し、現行20歳未満とされている少年法の適用年齢の引下げについて検討を始めている。
しかし、国や社会の在り方について考え、投票行動により自分の意見を表明できる者は何歳以上であるかという公職選挙法の選挙権年齢の問題と、非行を行った者に対し健全な大人になるための手立てを講じる時期をどこまでに設定するかという少年法の適用年齢の問題は全く別であり、これらを連動させる理由はない。 過去を見ても、選挙権年齢は戦後に現行の公職選挙法が制定・施行されるまでは25歳以上の男子とされていたが、旧少年法(1922(大正11)年制定)の適用年齢は18歳未満とされており、一致していなかった。また、1896(明治29)年制定の民法は成年年齢を20歳と規定しており、選挙権年齢とも旧少年法の適用年齢とも一致していなかった。法律の適用年齢はそれぞれの法律の立法趣旨に照らして慎重かつ具体的に検討すべきであり、少年法についても同様である。
この点、旧少年法で18歳未満とされていた適用年齢を現行の20歳未満に引き上げたのは、20歳くらいまでの者は未だ心身の発達が十分でなく環境その他外部的条件の影響を受けやすく、犯罪が深い悪性に根ざしたものではないため、刑罰を科すよりは保護処分によってその教化を図る方が適切である場合が極めて多いという立法趣旨に基づく。若年者の犯罪・非行がその資質と生まれ育った環境に大きく起因していることは、非行少年と接し、その立ち直りの支援に当たっている者が日々体感していることであり、この立法趣旨は現在にも当てはまる。
現行の少年法制の下においては、少年事件は全件家庭裁判所に送致され、家庭裁判所調査官による社会調査、少年鑑別所における資質鑑別、付添人等による更生のための援助、審判廷での質問、訓戒など様々な教育的な働きかけにより、少年の更生・成長・発達を図っている。少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げると、18歳、19歳の少年被疑者は刑事裁判手続で扱われることになり、比較的軽微な犯罪の場合、専門的な調査や審判時や審判後の教育的な働きかけなど、これまで練り上げられてきた処遇が全くなされないまま、起訴猶予処分により社会に復帰することになる。これは、少年の更生の機会を奪い、再犯のリスクを高めることになりかねない。2013(平成25)年に検察庁が新しく受理した18歳、19歳の少年被疑者数は4万8642人(検察統計年報)であり、その影響は大きい。
少年法の適用年齢を引き下げるべきであるとの意見の中には、少年非行や少年による凶悪犯罪の増加を根拠にするものがある。しかし、刑法犯少年の検挙者数は年々減少しており、少年10万人あたりの検挙人員も2013(平成25)年は763.8人となり、ピークであった1981(昭和56)年の1721.7人の半分以下となっている。また、殺人・強盗・放火・強姦といった凶悪犯罪と呼ばれる事件は昭和30年代のピーク時の12%以下まで減少しているのであって、少年非行や少年による凶悪犯罪が増加しているとはいえない。
また、少年が故意に人を死亡させた重大事件への対処については、2000(平成12)年の少年法改正により、行為時に16歳以上の少年が、殺人や傷害致死等の故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合は原則として、その他の重大事件については裁判所の裁量により、成人と同様に裁判員裁判等の裁判を経て刑事処分を受けるとされ、また2014(平成26)年の少年法改正により、少年に科す刑罰の範囲が拡大されている。このように、現行の少年法によっても重大事件については既に(原則として)刑事処分を行う法制度となっており、この上、さらに少年法の適用年齢を引き下げる必要性は認められない。
よって、当会は、少年法の適用年齢の引下げに強く反対する。
2015(平成27)年7月14日
滋賀弁護士会
会長 中原淳一