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会長声明・決議

民法の成年年齢の引下げに関する会長声明

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民法の成年年齢を20歳から18歳に引下げる法案が、近く国会に提出されるとの報道がなされている。

当会は、2016(平成28)年7月11日付けの「消費者被害と民法の成年年齢の引下げに関する会長声明」で、若年者の消費者被害を拡大させるおそれが高い等の理由から、民法の成年年齢の引下げに反対するとの意見を述べた。現時点においても、当会の先の声明で指摘した懸念は何ら払拭されないままであるため、当会は、引き続き、民法の成年年齢を引下げることに反対する。

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民法の成年年齢を引下げた場合、18歳、19歳の若年者が未成年者取消権(民法5条2項)を失うことにより、違法もしくは不当な契約を締結させられた場合の救済が困難になるほか、悪質な事業者に対する抑止力の範囲が狭まることによって、若年者に対する消費者被害がさらに拡大するおそれが高まる。

2016(平成28)年9月、法務省が行った「民法の成年年齢引下げの施行方法に関する意見募集」では、新成年者が消費者被害に遭う危険性が増大するとの理由等から、「施行に伴う支障がある」との意見が大多数を占めた。

また、同年12月、当会の弁護士が滋賀県内の消費生活相談員との間で行った意見交換会においても、相談員から、「滋賀県においても、成年年齢の20歳になると消費生活相談の件数は著しく増えている。また、20歳を超えた大学生であっても、自身の締結した契約の内容について正しく理解していないことが多い。そのため、成年年齢が18歳に引下げられると、若年者の消費者被害はより深刻化すると思われる」旨の意見が述べられた。

このように若年者の消費者被害の拡大を懸念する状況は何ら変わっていないにもかかわらず、成年年齢引下げの民法改正法案提出が具体化しつつあることに、当会は強く危機感を抱いている。

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仮に民法の成年年齢を引下げる場合であっても、若年者の消費者被害を拡大させないためには、現行の未成年者取消権と同程度に実効性があり、また、これを利用する国民(特に当事者となる18歳、19歳の若年者)にとってわかりやすい代替制度を創設することが必要不可欠である。

具体的には、事業者に、契約締結に際し、消費者の年齢等を考慮して適切な情報を提供するとともに、当該消費者の需要・資力に適した商品・役務を提供することについて必要かつ合理的な配慮をする義務を課す。そして、当該消費者が18歳、19歳の若年者である場合には、本人にとって合理性・必要性を備えたものでない限り、原則として取消しを認める制度を創設すべきである。

また、特定商取引法の対象となっている取引類型については、若年者に消費者被害が多数発生しているものがあるため、同法に違反した事業者に対する処分等の執行を強化すべきである。

さらに、収入が少なく経済力に乏しい若年者が多額の消費者被害に遭う事例があり、そこでは収入や経済力に見合わない過剰な信用取引がなされている実態がある。そのため、貸金業法、割賦販売法を改正し、若年者については、ローンやクレジットカードの契約に際し、返済能力や支払能力の調査が適切に行われるよう、資力を明らかにする書面等をもってこれを確認する義務を例外なく課すようにすべきである。

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民法の成年年齢を引下げる法案を成立させる場合には、以上のような代替制度を併せて整備し、同時に、若年者の消費者教育を進めるべきである。そして、それらの準備期間として十分な期間を、改正法の施行までに置くべきである。

なお、以上に述べてきた代替制度の保護の対象となる「若年者」については、18歳、19歳の者を念頭に置いているが、大学進学率が5割に達し、専門学校等への進学者を加えると7割以上の者が18歳を超えても学業を継続している現状を踏まえれば、一般的に大学を卒業し就職するようになる22歳までの者を対象とすることも検討すべきである。

以上
2018(平成30)年1月30日

滋賀弁護士会
会長 佐口 裕之