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会長声明・決議

大崎事件第3次再審請求棄却決定についての会長声明

                    

 

  2019(令和元)年6月25日,最高裁判所第一小法廷は,いわゆる大崎事件第3次再審請求事件(請求人原口アヤ子氏ほか)の特別抗告審について,検察官の特別抗告には理由がないとしたものの,職権により,鹿児島地方裁判所の再審開始決定及び福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却(再審開始維持)決定を取り消し,再審請求を棄却する決定をした。

 

 本件は,1979(昭和54)年10月,鹿児島県曽於郡大崎町において,原口氏が,元夫,義弟の計3名で共謀して被害者を殺害し,その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。

 

原口氏は,逮捕時から一貫して無罪を主張したものの,1980(昭和55)年3月31日,鹿児島地方裁判所は,共犯者とされた元夫,義弟,義弟の息子の3名による自白,自白内容と矛盾しない法医学鑑定,共犯者親族の供述等を主たる証拠として,懲役10年の有罪判決を言い渡し,同判決は1981(昭和56)年2月17日に最高裁判所が異議申立を棄却して,確定した。

 

 1995(平成7)年4月19日,原口氏は再審請求を行い,2002(平成14)年3月26日,第1次再審請求審の鹿児島地方裁判所は,いったん再審開始決定をしたものの,検察官の即時抗告により同決定は取り消され,その後の第2次再審請求においても再審の扉は開かなかった。2017(平成29)年6月28日,第3次再審請求審の鹿児島地方裁判所は,法医学鑑定と供述心理鑑定を新証拠として2度目となる再審開始決定をし,2018(平成30)年3月12日,福岡高等裁判所宮崎支部も再審開始の結論を維持し,検察官が特別抗告をした。

 

そして,今回,最高裁判所は,書面審理のみで原々審及び原審の判断を「著しく正義に反するもの」として覆し,不意打ち的に,自ら請求を棄却したのである。

 

本件は,過去3回にわたって再審開始が認められており,えん罪被害救済を目的とする再審手続の中でも特に慎重な判断が要求される事件である。特別抗告審が事後審かつ法律審であり,事実誤認が抗告理由にあたらない以上,下級審の事実認定に疑問があったとしても,公開された再審公判の法廷において事実審理を行わせるか,せめて事件を下級審に差し戻すべきであった。

 

また,今回の決定は,新証拠に旧証拠を凌駕する高度の証明力を要求し,事実上,請求人側に無罪の立証責任を負わせたとも解され,えん罪被害救済を理念とする再審制度の趣旨や,「疑わしい時は被告人の利益に」の原則が再審請求審にも適用されるとした白鳥・財田川決定を骨抜きにするものである。今回の決定が,下級審における再審判断に及ぼす影響も懸念され,日野町事件,湖東事件といった再審弁護に携わってきた当会としても,到底容認することはできない。

 

本件は,事件発生から約40年,第1次再審請求から24年以上が経過し,原口氏も92歳と相当高齢になっている。原口氏の雪冤のために残された時間はあまりにも少ない。

 

当会は,大崎事件の再審請求について,日本弁護士連合会及び鹿児島県弁護士会と連帯し,あらゆる協力を惜しまないことを表明するとともに,再審請求審における全面的証拠開示,再審開始決定に対する検察官の不服申立て禁止をはじめとする,えん罪被害救済に向けた再審法改正の実現に,さらに力を尽くす所存である。

          

2019(令和元)年7月9日

                                      滋賀弁護士会       

                             会長 永 芳  明