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会長声明・決議

クレジット過剰与信規制の緩和に反対する会長声明

経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会は、本年5月29日、「テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方」と題する中間整理をまとめ、クレジット過剰与信の規制を緩和する方針を示した。しかしながら、その内容には多重債務防止及び消費者保護の観点から、以下のとおり重大な問題がある。

 

1 少額の与信における規制緩和について

中間整理は、購入履歴等のビッグデータや解析技術を活用して、支払い可能な能力を判断できる事業者が、利用限度額10万円以下の与信を行う場合は、指定信用情報機関への信用情報の照会義務(割賦販売法第30条の2第3項)及び基礎特定信用情報の登録義務(同法第35条の3の56第2項及び第3項)を免除することを提案している。「新たな少額サービスは、少額の範囲のサービスであり、主として月額給与等の中で賄われるような少額の支出を後払いの形式とするものであり、従来のクレジットカードサービスに比べて、極度額が少額に抑えられている限り、支払いが過度に困難な債務を負うことは通常想定しにくい。」というのがその理由である。

しかしながら、少額の与信であっても、必ずしも多重債務者の増大につながるリスクが低いとは言えない。

日本弁護士連合会が定期的に実施している破産事件記録調査によれば、破産事件のうち負債額が100万円未満の割合は増加傾向にあり、2017(平成29)年の調査では、その割合は7.51%に上っている。100万円未満の債務額で破産する生活困窮者層においては、10万円の与信でも多重債務に陥るリスクとなりうる。

また、信用情報を調査することなく与信判断を行うということは、すでに多重債務状態に陥った者に対しても与信が可能になるということである。多重債務状態にある者がさらに10万円の債務を何口も重ねることは、経済的更生をより困難にする。

さらに、指定信用情報機関に与信情報が登録されないならば、ビッグデータ・AI分析等を用いない業者は、顧客の他の事業者に対する債務の状況を把握する手段を失い、適正な与信審査ができなくなるおそれがあるし、少額与信についての延滞事故発生の事実も、他の与信業者に共有されないことになる。そうなれば、支払い困難となった債務者に対して、他の事業者がさらに貸付をするという事態が生じうる。

2022(令和4)年4月には改正民法が施行され、成年年齢が18歳に引き下げられる。所得が低い若年層は、比較的少額の債務でも支払い困難に陥るおそれがあり、限度額が10万円のカードを複数枚併用するだけでも多重債務に陥る危険は十分にある。

以上のとおり、少額の与信について信用情報の照会義務や基礎特定信用情報の登録義務を免除することは、多重債務者を発生させる危険がある。

 

2 ビッグデータ・AI分析等を用いた与信審査について

また、中間整理は、クレジット会社独自の技術やデータを活用した与信審査方法を使用する場合には、支払可能見込額調査義務(割賦販売法第30条の2第1項)、指定信用情報機関への信用情報の照会義務(同法第30条の2第3項)を免除することを提案している。

これは、購入履歴等のビッグデータ・AI分析や過去データ・ノウハウに基づく与信審査を行う場合には、従来の支払可能見込額調査の算定式を用いなくとも適切な与信審査が可能であるとの考え方に基づくものである。

しかしながら、支払可能見込額調査を不要とし、与信審査の方法を与信業者が自由に設定できることになれば、結局は多重債務の発生を抑止することよりも各事業者の利益を優先させることを許すことになってしまう。

そもそもビッグデータ・AI分析等を用いた与信審査が多重債務の抑制に資する保証はなく、現行法の規制を緩和することには大きな危険がある。

 

過剰与信による多重債務者の大量発生が続いたという経験を踏まえ、与信の量的規制を導入したのが、2008(平成20)年の割賦販売法の改正であった。貸金業法と出資法の改正により多重債務問題は劇的に改善したとはいえ、最近では再び破産事件は増加に転じている。過剰与信規制の安易な緩和は危険というほかなく、当会は、中間整理が提案する規制緩和に反対する。

 

2019(令和元)年10月24日 

 

            滋賀弁護士会  

            会長 永 芳   明