会長声明・決議
障がい者のバス利用に関し合理的配慮を求める会長声明
障がい者のバス利用に関し合理的配慮を求める会長声明
2019(令和元)年7月3日に、県内のバス事業者が、バス停に停車中の車いす対応型のバス車両において、車いす利用者及びその介助者より乗車の申し出を受けた際に、乗車のために必要な手段を講じず、次の車いす対応型バスを案内し、乗車を断った事案(以下、「本件事案」という)が発生した。
日本国憲法は、第22条第1項において移動の自由を保障しており、障がい者にも移動の自由が保障されている。また、第14条第1項において平等権が保障され、障がいを理由とした不合理な差別は禁止される。
この点、日本が批准している障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」という。)は、直接差別及び間接差別に加え、合理的配慮を行わないことも障がいに基づく差別であると定め、締結国に対し合理的配慮が提供されることを確保するための適切な措置をとること等を求めている。合理的配慮とは「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」(第2条)であり、合理的配慮義務は障がいについての社会モデルを基礎としている。すなわち、障がいという現象を病気・外傷等の個人の問題(医学モデル)として捉えるのではなく、社会環境により作り出されてきた問題と捉えるのが社会モデルであり、過重な負担を伴わない限り、このような社会的障壁を除去する義務があるとしたのである。
我が国は2014(平成26)年の障害者権利条約批准に先立って国内法を整備し、障害者基本法において、「障害者」の定義について社会モデルを採用し、及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、「差別解消法」という)において、「障害者」の定義について社会モデルを採用し、合理的配慮義務について定めた。また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、「差別解消法」という。)第8条第2項は、事業者に対し、その事業を行うにあたり社会的障壁の除去を必要としている障がい者からの求めに対し「当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮」をする努力義務を定めている。
この差別解消法の事業者の努力義務は、滋賀県障害者差別のない共生社会づくり条例(以下、「県条例」という。)第6条により法的義務とされ、「不特定かつ多数の者が利用する建物、その他の施設または公共交通機関において、これらの利用を拒み、もしくは制限し、またはこれに条件を付すこと」(県条例第2条第3号キ)は障がいを理由とする差別にあたる例として明記されている。
車いす対応型のバス車両におけるスロープ等の利用による支援は事業者に過重な負担を課すものではない。本件事案におけるバス事業者の対応は、差別解消法及び条例の定める合理的配慮義務に反する対応である。
よって、当会は、県内の全バス事業者に対して、今後、同様の事態が生じないよう、障がいのある人の移動の自由及び平等権等の重要性を確認し、障害者権利条約等の趣旨に基づいて、障がい者に対する合理的配慮義務を踏まえた対応をされるよう要請するものである。
また、本件事案についての報道を受け、合理的配慮を求めた車いす利用者に対する批判的なコメントが多数寄せられる状況が発生した。
差別解消法は、第1条において「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有すること」を明記する。県条例も付則において「障害の有無にかかわらず、一人ひとりが基本的人権を享有し、相互に人格と個性を尊重し合いながら共に生きる社会を実現することは、私たち県民に課せられた責務である」としている。障がい者に対する合理的配慮については、個人の尊厳に普遍的な価値を認める社会の一員として、我々、一人一人が取り組むべき問題であるところ、権利を行使した障がい者に対しかかる心無い批判が寄せられたことは非常に残念なことである。
当会は、これまで基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として、障がいによる差別の解消と障がいの有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生できる社会の実現に向けて、会内での取組みを行い、社会に向けた提言を行ってきたが、障害者権利条約等の理念が社会により広く浸透するよう一層の取り組みを行うべく、ここに決意するものである。
2020(令和2)年3月10日
滋賀弁護士会
会長 永 芳 明