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会長声明・決議

検察官に関する不当な人事権の行使に抗議する会長声明

2020年03月10日

政府は、2020(令和2)年1月31日の閣議で、東京高等検察庁検事長の勤務延長を決定した。さらに、2月18日には、半年間の定年延長後に検事総長に任命することも可能であるとの見解を示す閣議決定も行われている。これらの決定は、検察庁法第22条に違反するおそれがある不当な人事権の行使と言わざるを得ない。

そもそも検察官は、その職責上、政治的権力からの独立性が求められる立場にある。

「検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。」(検察庁法第4条)ものとされている。このように、検察官は、司法制度において極めて重要な役割を担うものであり、その職務遂行には高度の公正性が求められる。検察官は、ときには権力を持つ立場の被疑者に対しても適正に捜査権を行使しなければならない。検察官の人事に行政からの介入があれば、政治家に対する公正な捜査が期待できなくなり、国民の信頼を損なうことにもなる。

検察官適格審査会の職務不適格議決等の手続を経なければ検察官をその意に反して辞めさせることはできないといった身分保障があったり、個々の事件の取調又は処分について、法務大臣が直接に検察官を指揮することが禁じられたりしている(検察庁法第14条)のも、検察官の独立を保障するためである。このように、検察官は、行政官ではあるものの、政治的な圧力から一定の距離を置くべき存在なのである。

検察官のこのような特殊な地位に照らせば、行政が、恣意的に、個々の検察官の定年を延長するようなことは、極力避けるべきものと言わざるを得ない。

国家公務員法第81条の3第1項は、「任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。」と定めている。「前条第一項」とは国家公務員法上の定年を指すものであって、検察庁法上の定年を指すものではないから、文理解釈上も検事の定年延長は想定されていないと解釈するのが自然である。

一方、検察庁法第22条は、「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。」と明記している。また、同法附則第32条の2は、「この法律(中略)第22条(中略)の規定は、国家公務員法附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。」とも規定している。したがって、検察庁法は国家公務員法に対する特別法にあたり、検察庁法第22条は、国家公務員法第81条の3に優先して適用されるものと解釈するのが自然である。

さらに、報道によれば、国家公務員法第81条の3が新設された際の政府の想定問答においても、同条は検事には適用されない旨が明記されているとされる。

このように、検事の定年はあくまでも63歳であって、国家公務員法第81条の3を適用して検事の定年を延長することは許されないと考えるほかない。

検察庁法が制定されたのが1947(昭和22)年であり、国家公務員法第81条の3は、それよりも後、1981(昭和56)年の国家公務員法改正で導入された規定である。そこで、政府は「後法は前法を破る」という法理を根拠として、検察庁法第22条に優先して国家公務員法第81条の3が適用されると説明するもののようである。かりにそのような解釈を認めるとしても、実際の定年延長のためには、「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」という要件を満たさなければならない。今回の閣議決定では、具体的にどのような特別の事情があったのか、検事長の退職により公務の運営にどのような著しい支障が生ずるのか、そしてそれらの事情に「十分な理由」があると言えるのか、こうしたことが明らかにされているとは言い難い。

検察官は63歳に達した時に退官するという検察庁法第22条の規定は、従前から例外なく、規定どおりに運用されてきた。今回、検察官の定年延長も許容されるという解釈変更を行わなければならない理由についても何ら具体的に示されていない。

制度上、検察官の人事権が行政府にあることは否定できない。しかし、だからといって、行政府が恣意的に人事権を行使してよいということにはならない。憲法が前提とする三権分立の趣旨に照らせば、司法に関わる人事権は、あくまで公正中立を旨として謙抑的に行使されるべきものである。今回の定年延長問題は、検察人事の公正性、中立性に疑念を招くものであるというほかない。

当会は、司法制度の一翼を担う専門家団体として、司法の独立を害するような、検察官に関する今回の不当な人事権の行使に抗議するものである。

 

 

2020(令和2)年3月10日

 

              滋賀弁護士会

             会長 永 芳   明