会長声明・決議
刑事被告人の元弁護人の法律事務所への捜索に抗議する会長声明
刑事被告人の元弁護人の法律事務所への捜索に抗議する会長声明
本年1月29日、東京地方検察庁の検察官らは、東京地方裁判所裁判官が発付した令状に基づき、出入国管理法違反等被疑事件の関係先として、関連事件の弁護人であった弁護士らの法律事務所の捜索を行った。同弁護士らが、押収拒絶権を行使して、捜索を拒否する意思を明示したにもかかわらず、検察官らは、裏口から法律事務所に立ち入って捜索を強行した。その上、検察官らは、再三の退去要請に応じず、長時間の滞留を続け、法律事務所内のドアの鍵を破壊し、本件とは関連性のない多数の事件記録等が置かれた弁護士の執務室をビデオ撮影するなどした。
弁護士には、業務上委託を受けて保管又は所持する物で他人の秘密に関するものについて押収拒絶権が保障されている(刑事訴訟法第105条)。同条の趣旨は、秘密を委託される業務、及び、この業務に対する社会の信頼を保護する点にある。弁護士が押収拒絶権を行使してもなお、捜査機関が捜索を行うならば、業務上の秘密は捜査機関の知るところとなり、法が押収拒絶権を保障した趣旨は没却される結果となる。よって、弁護士によって押収拒絶権が行使された場合、対象物を押収するための捜索も許されないことは当然である。特に、憲法第34条及び第37条第3項が保障する弁護人依頼権は、弁護人と被疑者・被告人との間のコミュニケーションの秘密が保護されずして実現しえないから、弁護人による押収拒絶権はこれを補強する極めて重要な権利である。
検察官らが行った今回の捜索は、弁護士に押収拒絶権を認めた法の趣旨に反する違法行為であり、正当化の余地はない。かかる違法行為は、弁護士業務に対する信頼を失わせるものである上、弁護人が刑事事件において被疑者・被告人のために活動する立場にあることそのものを攻撃し、刑事弁護活動を大きく委縮させるもので、被疑者・被告人の憲法上の弁護人依頼権の実質的な保障という観点からも、我が国の刑事司法の公正を著しく害するものであると言わざるを得ない。
また、令状審査の段階で、本件で弁護士が押収拒絶権を行使するであろうことは、容易に予想しえたはずである。にもかかわらず、裁判官は、個別具体的な事情に即した慎重な審査を行わずに、捜査機関の求めに応じて捜索を許可している。かかる判断は、令状審査の際に裁判官が果たすべき職責を著しく怠ったものと言わざるを得ず、令状主義の精神に照らして明らかに不当である。
そこで、当会は、検察官による違法な捜索行為及び裁判官による安易な令状発付に対して強く抗議し、同様の事態を今後再び招くことのないよう求めるものである。
2020(令和2)年3月10日
滋賀弁護士会
会 長 永 芳 明