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会長声明・決議

湖東事件再審無罪判決についての会長声明

2020年03月31日

湖東事件再審無罪判決についての会長声明

 

 本日,大津地方裁判所は,いわゆる湖東事件について,西山美香氏に対して,再審無罪判決を言い渡した。当会は,長きにわたって無実を訴え続けてきた西山氏のご苦労及び,西山氏を支えてこられたご家族,支援者の方々,弁護団の活動に対して心から敬意を表する。

 

 本件は,2003(平成15)年5月22日,滋賀県愛知郡湖東町(当時)所在の湖東記念病院に看護助手として勤務していた西山氏が,同病院に慢性呼吸不全等の重篤な症状で入院中であった患者(当時72歳)に装着された人工呼吸器のチューブを引き抜いて酸素供給を遮断し,急性低酸素状態に陥らせて殺害したとされた事件である。

 

西山氏は,捜査段階で自白したものの,公判では否認に転じ,その後は一貫して無罪を主張してきた。しかし,2005(平成17)年11月29日,大津地方裁判所は懲役12年の有罪判決を言い渡し,2007(平成19)年5月21日,最高裁判所の上告棄却決定により,同判決は確定した。

 

 西山氏は,再審請求手続の中で,患者の死因や自白の信用性を争った。2017(平成29)年12月20日,大阪高等裁判所は,新旧証拠の総合評価を行い,①患者が他の死因で死亡した可能性があること,②自白についても,その変遷から体験に基づく供述ではないとの疑いがあり,西山氏が捜査官の誘導に迎合した可能性があることから,患者が自然死した合理的疑いが生じたとして再審開始を決定した。2019(平成31)年3月18日,最高裁判所第二小法廷も,検察官の特別抗告を棄却して再審開始決定が確定し,今回の再審公判が開かれた。

 

再審公判手続では,警察が検察官へ送致していなかった証拠の存在が明らかとなり,人工呼吸器の管内での痰の詰まりにより患者が心臓停止した可能性もあるとする解剖医の所見が記載された捜査報告書などが新たに開示された。

 

 今回の判決は,患者の死因が人工呼吸器の管の外れに基づく酸素供給欠乏により死亡したと認めるに足りる証拠はなく,かえって,患者が低カリウム血症による致死性不整脈等,上記以外の原因で死亡した具体的な可能性があるとし,事件性を認めるに足りないとした。そして,西山氏の自白についても,信用性に疑いがあるのみならず,防御権の侵害や捜査手続の不当によって誘発された疑いが強く,その任意性にも疑いがあるとし,証拠排除した。確定審における判断の誤りを明確に指摘したものであって,当会としてもこれを評価する。

 

 また,検察官は,再審公判において,当初は西山氏の有罪を主張立証する方針を示し,後に新たな有罪立証を断念した。しかし,無罪判決を求めるわけでもなく,「取調済みの証拠に基づき,適切な判断を求める」とだけ述べて,確定審での主張を撤回しなかった。このような検察官の態度は,公益の代表者としてふさわしいとは言い難く,厳しく批判されなければならない。

 

 当会は,被疑者弁護をさらに充実させるとともに,取調べ全過程の可視化,取調べにおける弁護人立会い,証拠の全面的開示,再審開始決定に対する検察官の不服申立て禁止をはじめとする,えん罪の防止及びえん罪被害救済に向けた制度改革の実現に,さらに力を尽くす所存である。

 

2020(令和2)年3月31日

滋賀弁護士会

会長 永 芳  明