会長声明・決議
再審請求において「公平な裁判所」による審理を求める会長声明
本件は,1984(昭和59)年12月,滋賀県蒲生郡日野町で発生した強盗殺人事件であり,1988(昭和63)年3月に亡阪原弘氏が逮捕された。亡阪原氏は,いったん自白したものの,後に自白を撤回し,以後一貫して無実を訴えてきたが,2000(平成12)年9月に上告が棄却されて無期懲役の判決が確定したものである。
2006(平成18)年3月27日,大津地方裁判所は,本件第1次再審請求について,亡阪原氏の自白には,弁護団の提出した新証拠から認定できる殺害態様など複数の客観的事実との矛盾があることを認めながら,その矛盾の原因を阪原氏の記憶能力の問題等に帰して,自白の信用性には影響を与えないと判断し,請求棄却決定をした。同決定の裁判長を務めた裁判官は,第2次再審請求即時抗告審の裁判長となった裁判官である。
2018(平成30)年7月11日,大津地方裁判所は,本件第2次再審請求について再審開始決定をしたものの,同決定に対し検察官が即時抗告を申し立てたため,現在,大阪高等裁判所において即時抗告審が係属するに至っている。
刑事訴訟法は,「前審の裁判」に関与した裁判官は職務の執行から除斥されること(同法20条7号),不公平な裁判をするおそれのある裁判官に対しては忌避の申立てができることを定め(同法21条),刑事訴訟規則は,裁判官がこれらの事由があると思料するときは,自ら審理を回避しなければならないと定めている(同規則13条1項)。
にもかかわらず,通常審や前次の再審請求の審理・判断に関わった裁判官が,後の再審請求に再び関与することになれば,実質的には過去に自ら下した判断の当否を審理することと変わりがなく,日本国憲法37条1項の保障する「公平な裁判所」の理念に重大な疑問を抱かせることになり,ひいては司法に対する市民の信頼を失う事態となりかねない。
日本弁護士連合会は,かねてよりそのような事態を強く懸念し,通常審や前次の再審請求に関与した裁判官が,その後の再審請求の審理を担当すべきでないことを明確にする法改正を求めてきた(同連合会1991年3月28日付け「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」)。また,裁判所は,このような法改正がなされるまでの間であっても,日本国憲法37条1項の理念に沿って,再審請求において,通常審や前次の再審請求に関与した裁判官が審理に関与しないように対応すべきである。
よって,当会は,再審請求においても,日本国憲法37条1項の理念に沿って,「公平な裁判所」による公平な再審審理が行われることが客観的に明らかとなるよう法改正を求めるとともに,裁判所に対しても,再審請求において引き続き適切な対応を求めるものである。
2020(令和2)年7月15日
滋賀弁護士会会長 西川 真美子