会長声明・決議
国選弁護人選任請求の手続きが遅延した件について抗議し、調査及び再発防止を求める会長声明
国選弁護人選任請求の手続きが遅延した件について抗議し、調査及び再発防止を求める会長声明
2020(令和2)年10月23日(金曜日)、草津警察署の留置管理課職員が、勾留中の被疑者より、国選弁護人を選任するための書類を交付するよう申し出を受けたにもかかわらず対応せず、さらに翌日24日(土曜日)、被疑者より再度要望を受けた別の同課職員が、「弁護士は土日は接見に来ないため、今手続きをしても仕方がない。」と誤った説明を行い対応しなかったことにより、国選弁護人の選任請求手続きが同月26日(月曜日)まで遅延したという事案(以下「本件事案」という。)が発生した。手続きが遅延した3日の間に、被疑者は、弁護人不在の状況で取調べを受け、弁護人の援助を受けることができなかった。
憲法では抑留・拘禁された者や刑事被告人に対して弁護人を依頼する権利を保障している(憲法34条、37条3項)。そして被疑者に対して勾留状が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない(刑事訴訟法37条の2)。
この弁護人依頼権を保障した趣旨を、勾留されている被疑者についてみると、法律専門家である弁護人が、身体拘束を受け不安動揺の最中にある被疑者に対してその有する権利を適切に行使できるよう援助の手を差し伸べると共に、適正手続の監視を通じて誤った自白による誤起訴および誤判を未然に防止することにある。
本件事案の被疑者は、留置管理課職員の誤った対応により、弁護人から援助を受ける権利を一時侵害された。被疑者の国選弁護人が行った苦情の申し出に対し、草津警察署長は「留置担当官が、国選弁護人制度における事務手続きについて十分な理解がないまま」「国選弁護人選任請求の手続きを怠り、その後、引継ぎを受けた担当官にあっても同連絡方法等の十分な理解がないまま、国選弁護人選任請求の手続きが遅延した」と回答したが、前述の被疑者が弁護人の援助を受けることの重要性に鑑みれば、看過しがたい重大な過ちであると言わざるを得ない。
よって当会は、滋賀県警察本部及び草津警察署に対し、留置管理課職員の誤った対応により国選弁護人の選任請求手続きが遅延した本件事案の発生について厳重に抗議する。
ところで、草津警察署においては複数の留置管理課職員がいたにも拘わらず、本件事案が発生した。本件事案で対応した職員以外にも、被疑者から弁護人選任の申し出があった場合に直ちに必要な措置を執らなければならないことを理解していない職員が存在する可能性、ひいては本件は氷山の一角に過ぎず国選弁護人の選任請求に関して他にも多くの問題事例が存在する可能性は否定できない。
そこで、当会は、滋賀県警察本部に対して、県内すべての警察署において国選弁護人の選任請求手続に関する問題事例の有無を調査し、その結果を公表して、組織的に再発防止策を策定し実行することを求める。なお、本件事案のような問題事例の発生を防止するためには、被疑者を逮捕した段階で直ちに当番弁護士制度について教示し、早期に弁護士から国選弁護人制度に関する助言を受けることが最も有益であると考えられるので、再発防止策を策定するにあたってはこの点も踏まえられたい。
以 上
2020(令和2)年12月28日
滋賀弁護士会
会 長 西 川 真美子