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会長声明・決議

改めて取調べの全面的可視化及び取調べへの弁護人の立会いを求める会長声明

改めて取調べの全面的可視化及び取調べへの弁護人の立会いを求める会長声明

 

1 はじめに

 県内において、捜査機関により不適切な取調べが行われ、自白を強要されたと疑われる事案が発生した。当会では2019(令和元)年6月11日にも「適正な取調べの実現のため、在宅被疑者を含めた全事件全過程の取調べの全面的可視化及び取調べへの弁護人の立会の実現を求める会長声明」を発出しているところ、本事案の発生を受け、改めて、適正な取調べを確保するための制度の実現を求めるものである。

 

 2 事案の概要

大津警察署は2019(令和元)年10月、乳児に対する傷害罪の疑いでその母親(以下「母親」という。)を任意捜査として長時間取り調べ、その結果母親は自白し逮捕された。弁護人が選任された後、母親は自白を撤回し容疑を否認したが、翌月、大津地方検察庁(以下「地検」という。)は母親を傷害罪で起訴した。

母親の公判においては、乳児の腕の傷痕と母親の歯形が一致したとする鑑定結果が重要な証拠とされていたところ、2020(令和2)年1月の公判における弁護人の反対尋問によりこの鑑定結果は誤りである疑いが濃くなった。そこでこれを受けて捜査機関が調査した結果、滋賀県警(以下「県警」という。)鑑識課の鑑定官の鑑定結果に誤りがあったことが判明した。その後、県警と地検は母親に謝罪し、地検は同年9月18日に公訴を取り消し、同日地裁は公訴を棄却した。

報道によれば、県警は同年11月6日までに、鑑定書の幹部決裁段階などで組織的にミスをチェックできなかったとして鑑識課に「業務指導」を行ったものの、担当した鑑定官について個人の責任を問うことはしなかった。さらに、取調べについて、取調べ監督室が担当刑事らを調査した結果、殊更不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動は認められなかったとして自白の強要はなかったと結論付けた。

                                                                              

3 取調べの全面的な可視化及び弁護人の立会いの必要性

しかし、母親の弁護人によれば、母親は、逮捕前の取調べにおいて、県警の刑事から「自分のやったことは自分で口に出せ。おまえは黒だ」、「認めないと夫や両親を呼び出す」などと言われて虚偽の自白をするよう追い込まれ、任意捜査にもかかわらず朝方から夜まで長時間の取調べを受けた後、逮捕に至ったとのことである。その結果、無実であることが明らかな母親が、虚偽の自白に至っているのであって、「殊更不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動」を用いた取調べは事実としてあったと言わざるを得ない。

このような不適切な取調べを防止するには、取調べの全面的可視化及び取調べへの弁護人の立会いが必要である。取調べの全面的可視化がされれば、取調べの中で不適切な行為があったかどうか検証が可能になり、取調べに弁護人が立ち会うことができれば、被疑者は不適切な取調べを受けたときに弁護人から助言を得て適切に対応できる。そして何よりも、不適切な取調べを抑止する契機として有効に機能することが期待できる。

ところで、2019(令和元)年に、取調べの録音・録画、すなわち取調べの可視化を義務付けた改正刑事訴訟法が施行されたが、現時点での録音・録画の対象事件は、裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件のみにとどまっている。また、逮捕前の段階では、対象事件であっても録音・録画がなされないこととなっている。

しかし、取調べの適正確保に録音・録画が必要であることは、事件の軽重や種類に関わらない。現時点で行われているような部分的な可視化では不十分であり、事件の軽重や犯罪の種類、逮捕の前後を問わず全件について録音・録画がされるべきである。

本件の傷害事件は録音・録画の対象外であり、弁護人選任後、弁護人が母親の取調べを録音・録画するよう申し入れたものの警察署においては実施されなかった。取調べの適正を確保するために、そして憲法で保障された弁護人の援助を受ける権利を実質的に確立するために、早急に取調べの全面的可視化及び弁護人の立会いを制度として導入する必要がある。

 

4 結論

当会は、改めて、適正な取調べを確保するため、罪名を問わず、また、身体拘束の有無を問わず、全ての事件の全過程の取調べにおいて全面的可視化(録音・録画)を導入することと共に、取調べへの弁護人の立会いを実現することを求める。

 

2021(令和3)年1月15日

 

                              滋賀弁護士会

                               会 長  西 川 真美子