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会長声明・決議

重要土地等調査規制法案の廃案を求める会長声明

第1 声明の趣旨

 当会は、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」の廃案を求める。

 

第2 声明の理由

 本年6月1日に、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(重要土地等調査規制法案。以下「本法案」という。)が衆議院で可決され、同月8日から参議院で審議されている。

 しかし、以下に述べる通り、本法案には、そもそも立法事実の存在自体に疑問が残る上に、要件があいまいで、市民の基本的人権が侵害されるおそれが高い点で、重大な問題がある。


1 本法案の内容

 本法案では、内閣総理大臣は、「重要施設」の敷地の周辺おおむね千メートルや国境離島等の区域内に「注視区域」を指定し(第5条)、その区域内にある土地及び建物の利用に関し、調査や規制をすることができるとされている。具体的には、①地方公共団体の長等に対し、注視区域内の土地等の利用者等に関する情報の提供を求めることができる(第7条)、②注視区域内の土地等の利用者等に対して、当該土地の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができ、拒否した場合には罰金を科すことができる(第8条)、③注視区域内の土地等の利用者が自らの土地等を重要施設等の「機能を阻害する行為」に供し又は供する明らかなおそれがあると認められるときには、刑罰による制裁のもと、勧告及び命令により当該土地等の利用を制限することができる(第9条)と規定されている。


2 立法事実の存在に疑問があること

 確かに、本法案の目的は、自衛隊等の基地周辺の土地を外国資本が取得して その機能を害すること等を防止するものとされている。

 しかし、これまで政府によってなされてきた調査でも、防衛施設周辺にお ける土地取得等によって自衛隊の運用等に具体的に支障が生じたという事態がないとされており(2021(令和3)年4月15日参議院外交防衛委員会政府参考人土本英樹答弁)、立法事実の存在自体に疑問が残る。


3 要件があいまいであり、人権侵害のおそれが高いこと

 本法案における「重要施設」の中には、自衛隊や米軍基地の施設以外にも「生 活関連施設」が含まれており、その指定は政令に委ねられている。「生活関連施設」として指定されるためには、当該施設の「機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められる」ことが必要とされているが、この要件自体があいまいであり、恣意的な解釈によって、政令で広範な指定がなされるおそれがある。

 また、上記1の③の制限に関しては、何が「機能を阻害する行為」に該当するのか、どのような場合に機能を阻害する行為に「供する明らかなおそれ」があるのか明確でなく、行き過ぎた土地等の利用の制限がなされる危険がある。

 さらに、違反した場合に刑罰による制裁が伴っていることから、罪刑法定主義の明確性の原則に抵触する可能性も否定できない。


4 プライバシー権等を侵害する危険性があること

 上記1の①の情報提供に関しては、本人の知らないうちに地方公共団体の長等から政府に個人情報が提供されることが認められている。しかも、提供される情報の範囲は政令に委ねられており、広範な個人情報を提供しなければならなくなるおそれがある。これでは、本人の知らないうちに、プライバシー権が侵害されることになる。

 また、上記1の②についても、土地等の利用者等が求められる報告又は資料に関して何の制限もないことから、プライバシー性の高い事項や思想・良心に関する事項に関して報告又は資料を提供しなければならない可能性がある。その結果、利用者等のプライバシー権や思想・良心の自由といった基本的人権が大きく侵害されることになりかねない。


5 結論

 本法案は、立法事実の存在自体に疑問がある上に、基本的人権を侵害するおそれが極めて高い。このため、当会は、基本的人権の尊重を重視する立場から、本法案に反対し、今国会において本法案を廃案とすることを求める。

 

 2021(令和3)年6月14日

                    

                                滋賀弁護士会

                                 会長 森 野 有 香