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会長声明・決議

最高裁判所大法廷決定を受けて,改めて民法第750条を改正し, 選択的夫婦別姓制度を導入することを求める会長声明

最高裁判所大法廷決定を受けて,改めて民法第750条を改正し,
選択的夫婦別姓制度を導入することを求める会長声明

1 2021(令和3)年6月23日,最高裁判所大法廷は,婚姻に際し夫婦同姓を強制する民法第750条及び戸籍法第74条第1号について,憲法第24条に違反するものではないと判断した。
  今回,最高裁判所大法廷は,多数意見において2015(平成27)年12月16日の大法廷判決を引用した上で,同判決以降にみられる諸事情を踏まえても判断を変更すべきものとは認められないとして,両規定を合憲とした。

2 そもそも,氏名が「人格権の一内容を構成するものとして尊重されるべきもの」であること(最高裁第三小法廷 昭和63年2月16日判決)からすると,婚姻後も人格の象徴としての姓を継続して使用することは,憲法上の要請といえる。
改姓は,希望して行う場合は別として,アイデンティティの喪失に加え,個人の識別を阻害し,結果として,変更前の氏名に紐づけられていた当該個人に対する信用や評価が失われる等の重大な不利益をもたらしている。また,現在も,96%もの多数の女性が改姓しているという,性別による不平等な状況が生じている。
 よって,民法第750条は,憲法第13条及び同第24条が保障する個人の尊厳及び婚姻の自由,同第14条及び同第24条が保障する平等権を侵害し,女性差別撤廃条約第16条第1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む)」に反するものである。

3 選択的夫婦別姓の導入は,1996(平成8)年に法制審議会答申で指摘されているにもかかわらず,四半世紀を経ても未だ成立していない。日本は,国連女性差別撤廃委員会からも,度々,民法第750条の差別的規定を是正するよう勧告を受けている。同条約に加盟している180を超える国のうち,夫婦別姓を認めていない国は日本のみである。
また,2017(平成29)年12月に内閣府が実施した「家族の法制に関する世論調査」では,選択的夫婦別姓の導入に賛成すると回答した人が42.5%であり,夫婦同姓を支持し法改正の必要はないと回答した29.3%を大きく上回っている(ちなみに,同調査では,18歳から29歳までは賛成50.2%,反対19.8%,30歳から39歳までは賛成52.5%,反対13.6%との回答結果が示されている)。
  
4 当会は,これまで,夫婦同氏の強制(民法第750条)の差別的規定の速やかな改正を,度々,求めてきた(2010(平成22)年5月11日会長声明,2016(平成28)年1月14日会長声明)。
  この点,政府は,2020(令和2)年12月に閣議決定した第5次男女共同参画推進計画において,選択的夫婦別姓について「必要な対応を進める」としていた原案の文言を「夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し(中略)司法の判断も踏まえ,更なる検討を進める」とトーンダウンさせた上,第4次計画まであった「選択的夫婦別姓」の記述を削除するに至った。
このように,政府がむしろ議論を後退させ,国会においても議論が放置されている状況において,司法が違憲の判断を下すことなく,人権の最後の砦としての役割を果たさなかったことについては,非常に残念である。
  もっとも,今回の最高裁決定においては,4名の裁判官が,民法第750条及び戸籍法第74条第1号について憲法第24条に違反するとの判断を示し,現行制度を早期に改正する立法行動を求めている。また,合憲の立場をとった3名の裁判官も,補足意見において,このまま社会状況の変化が進めば夫婦同姓規定を違憲と判断する余地があるとして,現行制度を維持することについて厳しい態度を示している。
  望む者が改姓し,望まない改姓が強制されない選択的夫婦別姓は,個人の生き方の多様性,男女共同参画社会推進の流れからも,早期に認められるべきものである。
そこで,当会としては,改めて,国会及び政府に対し,民法第750条を速やかに改正し,選択的夫婦別姓制度を導入するよう強く求める。

2021(令和3)年8月27日

                                                                                                              滋賀弁護士会      
                                                                                                                 会長  森 野 有 香