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会長声明・決議

「当事者の申出による期間が法定されている審理の手続の特則」の新設について慎重な審議を求める会長声明

第1 声明の趣旨

民事訴訟法等の改正に関する要綱案の内、「当事者の申出による期間が法定されている審理の手続の特則」(以下「本特則」という。)の新設が、本年1月28日付で法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会においてとりまとめられ、同年2月14日付で法務大臣に対して答申された。上記特則は、民事訴訟の根幹にかかわる重要事項であるにもかかわらず、その必要性及び制度設計の具体的妥当性について、いずれも十分な議論が尽くされていない。

そこで、今後、特則の新設に向けて、さらに時間をかけてあらゆる側面から慎重な審議がされるべきであり、拙速な結論が出されることのないよう、強く要望するものである。

 

第2 声明の理由

1 「当事者の申出による期間が法定されている審理の手続の特則」について

今般、法務大臣に答申された民事訴訟法等の改正に関する要綱案では、「当事者の申出による期間が法定されている審理の手続の特則」が新設されようとしている。

本特則は、当事者の双方が申述(又は同意)をして裁判所が決定したときは、指定された期日から6か月以内の間に口頭弁論を終結しなければならない(当事者双方の意見を聴いて、これより短い期間を定めることも可能である)とするというものである。

裁判手続が適正かつ迅速に行われることは国民の権利の実現にとって重要なことであり、そのために、IT化などの時代に応じた民事訴訟制度のあり方に関して見直しが行われることは必要である。

しかし、本特則は、以下に述べる問題点が存する。

 

2 十分な審理がなされないまま判決がされるおそれがあること

民事訴訟は、判決により強制的かつ終局的に権利・法律関係を確定・形成しまた給付を命じる手続である。確定した判決において示された権利・法律関係には既判力が生じ、後で争うことができないという強力な効果をもつ。

当事者が十分な主張をし、証拠を提出する機会があったことが、判決に既判力という強力な効果を与えることが許される根拠となる。しかし、口頭弁論終結の期限(審理期間)を6か月あるいはそれより短い期間に決めてしまうと、審理期間を限定したために、審理状況に応じた十分な主張ができない、ないし、必要な証拠を提出できないことも危惧される。

そうなれば公正かつ適正な裁判を受ける権利(憲法第32条)が侵害されるおそれがある。また、裁判に熟したときに結審するという原則(民事訴訟法第243条)に抵触するおそれもある。

 

3 訴訟代理人がついていない場合に訴訟手続選択に伴う不利益が生じる可能性があること

審理期間を短縮して早期に判決を得たいという社会的なニーズがあることは否定しないが、審理期間として相当な期間を要する事件があることも事実である。

そして、当事者が、自分の事件にどれくらいの審理期間が必要なのかを適切に判断するのは困難である。本特則のような制度を利用する場合には、制度の理解がある弁護士の存在は不可欠であり、当事者双方に弁護士である訴訟代理人が選任されている事案に限定すべきである。

この点、要綱案には「当事者間の衡平を害し、又は適正な審理の実現を妨げると認めるとき」は本特則を利用できないとされているが、上記のような訴訟代理人が選任されている事案に限定はされていない。また、裁判所が、「当事者間の衡平を害し、又は適正な審理の実現を妨げると認めるとき」に関する判断をすることも容易ではない。訴訟代理人が選任されていない事案において、当事者本人が安易に本特則を利用してしまい、結果的に審理状況に応じた十分な主張ができない、ないし、必要な証拠を提出できなくなるといった不利益が生じる可能性がある。

 

4 本特則を新設する立法事実が存するか疑問であること

審理期間の短縮は、本特則を設けなくても、現行の手続において実現できる。

例えば、裁判官の増員、裁判所の施設の拡充をして、開廷期日を増やすこと等によって審理期間を短縮できる事件も相当数存在する。また、争点が単純かつ少ない事案では、現在でも6か月以内に審理が終結している事案もある。

直ちに法改正をして審理期間を限定した訴訟手続を設けなければいけないほどの立法事実が存するのか疑問である。

 

5 判決書が簡略化されることによる弊害

さらに、本特則を用いた手続の電子判決書は、事実については攻撃防御方法等の要点を記録し、理由については当事者双方との間で確認した事項の判断の内容を記録するとされている。しかし、電子判決書において攻撃防御方法等の要点しか記録されないことにより、判断の内容の記録も不十分なものになるおそれもある。当事者が判決に対して異議を申し立てるかどうかを判断するためには十分な理由が示されることが必要である。判決は裁判例として公表されれば、同種の事件にも影響を与え得るものであり、迅速化を理由として電子判決書の記録を簡略化することは適切ではない。

 

6 結論

本特則は、以上述べてきた通り、様々な問題があるにもかかわらず、同審議会において十分に検討されてきたとはいえない。

当会としては、特則の新設に向けて、拙速な結論が出されることのないよう、強く要望する。

 

2022(令和4)年2月15日

 

                                           滋賀弁護士会

                                            会長 森 野 有 香