会長声明・決議
旧優生保護法国家賠償訴訟の大阪高等裁判所判決及び東京高等裁判所判決を受けて被害者全員のすみやかな救済を求める会長声明
旧優生保護法国家賠償訴訟の大阪高等裁判所判決及び東京高等裁判所判決を受けて被害者全員のすみやかな救済を求める会長声明
1 本年2月22日,大阪高等裁判所は,旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟の控訴審において,国に対し,被害者である控訴人らの請求を認容する判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。その後,国は,本年3月7日付で上告した。
2 これまで,仙台,東京,大阪,札幌,神戸の各地方裁判所では,旧優生保護法自体又は同法に基づく不妊手術が違憲であることを認めながらも,訴訟提起時には改正前民法第724条後段の除斥期間が経過していたことを理由に,原告の請求をいずれも棄却してきた。
しかるに,本判決は,旧優生保護法によって「不良」であるとの烙印を押され,社会的な差別・偏見を受けることへの危惧感から司法へのアクセスが著しく困難となっていた被害者に対して,除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反するとして,除斥期間の適用を制限し,原告らの請求を認容した点で,画期的なものである。
3 また,本判決は,強制不妊手術を受けた被害者の配偶者についても,配偶者と
の子をもうけるか否かという幸福追求上重要な意思決定の自由を妨げられたとし
て,慰謝料請求を認めた。これは,子どもを持ち育てるかどうかを自由に決定す
る権利の侵害が,被害者本人だけでなく,人生をともにする配偶者に対しても重
大な権利侵害となることを認めたものであり,この点でも画期的である。
4 旧優生保護法に基づく強制不妊手術に関しては,2019(平成31)年4月24日に「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)が成立したが,被害者が高齢化し,また強制不妊手術に関する資料が散逸しつつある中で,未だ被害回復が十分になされているとは言い難い状況にある。
そして,本判決では,一時金支給法で定められている一時金の額を超える慰謝料額が認容されている。本年3月11日には,東京高等裁判所でも,本判決同様に除斥期間の適用を制限し,原告の請求を認容する判決が言い渡された。国は,これらの判決を真摯に受け止めて,一時金支給法の見直しを行い,一人として漏らすことなく,被害者の全面的救済を進めるべきである。
5 国及び滋賀県は,現在まで衛生統計を精査しておらず,正確な被害実態は把握できない。
この点,新聞報道によれば,滋賀県内においても,1957(昭和32)年から1967(昭和42)年までの間,本人の同意なく合計206名に対して不妊手術が実施されたとされる。また,本人の同意に基づいて行われた65名に対する不妊手術のうち,未成年者は5名であり,これは,国が未成年者を同意あり手術の対象から除くよう通知していたにもかかわらず実施されたものであって,違法性が大きい。しかも,上記期間に実施された不妊手術の対象は,女性が197名と7割以上を占めていたとされる。
国及び滋賀県は,被害者救済の前提となる統計資料について,すみやかに自らの責任で調査・公表すべきである。
6 旧優生保護法に基づく強制不妊手術は,滋賀県に暮らす人々,そして基本的人権の擁護を使命とする当会にとって,現在でも決して無視することのできない問題である。
当会は,裁判所に対して,引き続き,正義・公平の理念に基づいた適切な判断をするよう期待するとともに,旧優生保護法に基づく強制不妊手術の被害者全員がすみやかな救済を受けられるよう,徹底した調査を国及び滋賀県に求めるものである。
2022(令和4)年3月18日
滋賀弁護士会
会長 森 野 有 香