会長声明・決議
出入国管理及び難民認定法改正案に反対する会長声明
政府は、本年3月7日、「出入国管理及び難民認定法改正案(以下「本改正案」という。)」を国会に提出したが、本改正案は、2021(令和3)年に廃案となった「出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案(以下「旧法案」という。)」の基本的枠組みをそのまま維持した内容となっている。
当会は、2020(令和2)年10月14日、「『送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言』に関する会長声明」を発出し、旧法案に先立つ「収容・送還に関する専門部会」の提言に含まれる問題点を指摘した上で、同提言に基づく出入国管理及び難民認定法の改正に強く反対したところである。
そもそも、日本は諸外国に比べて難民認定率が極めて低く、本来難民として認定されるべきケースにおいて、難民として認定されないという深刻な問題を抱えている。2022(令和4)年11月3日に発表された国連自由権規約委員会の第7回政府報告書審査の総括所見においても、日本の難民認定率の低さに懸念が示されている。
にもかかわらず、本改正案は、かかる問題を解決する道筋を示すこともないまま、難民認定申請により送還停止の対象とされるのは原則2回までとし、3回目以降の申請者は送還可能とすることとして送還停止効の制限を認めており、旧法案の重大な問題点が残されたままとなっている。
難民認定率の低さが抱える問題点を解決しないまま、このように送還停止効を制限することは、本来難民として認定されるべき者たちを迫害されるおそれのある地域に送還してはならないという「ノン・ルフールマン原則」に反する結果を招来する危険が高く、断じて許されない。
なお、本改正案では、3回目以降の難民申請でも難民等と認定すべき相当の理由がある資料を提出した場合には送還停止の効力が維持されるという例外規定が設けられているが、例外に該当することを理由に送還停止効の制限を争う制度すら設けられておらず、上記危険が払拭されるとは言えない。
また、収容は、身体の自由という極めて重要な人権を制約するものであるにもかかわらず、本改正案には、旧法案と同様、収容についての司法審査や収容期間の上限に関する規定がなく、この点においても大きな問題が残されたままである。前記第7回政府報告書審査の総括所見においても、収容期間の上限を設けるべきこと、収容に関し裁判所の実効的な審査を確保すべきこと等について勧告を受けている。
本改正案では、3か月ごとに収容継続の必要性を判断し、逃亡のおそれの低い者について一定の条件のもと社会内での生活を認める「監理措置」に移行できるか検討する仕組みが設けられてはいるが、出入国在留管理庁が自ら収容の必要性を判断するものにすぎず、公平適切な判断がなされる保証がない。
しかも、監理措置制度における監理人には報告義務が課される場合があり、弁護士が監理人となる場合は、守秘義務違反や利益相反の問題を生じさせ、弁護士以外の支援者が監理人になる場合にも、出入国在留管理庁の監督権限を背景に、支援者と在留外国人との間の支援関係が監理する側とされる側という関係性に変容してしまい、支援する弁護士や一般市民にその立場と相容れない役割を強いるという重大な問題点を有するものである。
当会は、相互に人権と個性を尊重しながら多様性を活かして活躍できる多文化共生社会を目指し、他団体と連携する等して相談や支援の取り組みを進めてきた。かかる立場からも、共生社会の一員である外国人の暮らしや人権を脅かし、彼らをさらに困難な状況に追い込むおそれのある本改正案には到底賛成することはできない。
当会は、本改正案に断固反対し、国際的な基準に沿った抜本的な法改正をするよう強く求めるものである。
2023(令和5)年3月15日
滋賀弁護士会
会長 山本 久子