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会長声明・決議

「袴田事件」の速やかな再審公判開始と袴田巖氏の一刻も早い雪冤を求める会長声明

   本年3月13日、東京高等裁判所(大善文男裁判長)は、いわゆる「袴田事件」の第2次再審請求について、静岡地方裁判所の再審開始決定を支持して、検察官の即時抗告を棄却する決定をし、検察官が特別抗告を断念したことにより再審開始決定が確定した。しかしながら再審公判はいまだ開始しておらず、いつ開始するのかは現時点においても未定である。
 当会は、本年3月13日付け「『袴田事件』第2次再審請求差戻し後の即時抗告審決定に関し、検察官による特別抗告の断念と再審法の改正及び死刑制度の廃止を求める会長声明」において、本件を速やかに再審公判へ移行させるよう求めていたが、改めて、速やかに再審公判が開始され、一刻も早く袴田巖氏の雪冤が果たされることを強く求める。

 「袴田事件」の概要及び審理経過は、上記当会会長声明で述べたとおりであり、2014(平成26)年3月27日の静岡地方裁判所の再審開始決定に対して検察官が即時抗告をしたことによって、これが確定するまでに実に9年もの歳月を要する結果となった。しかも、報道によれば、検察官は、本年3月13日の東京高等裁判所の決定に対して、抗告期限の間際まで特別抗告の申立てを検討していたとされる。
 しかし、いわゆる「5点の衣類」が本件の犯行着衣であり、袴田巖氏のものであるとの確定判決の認定については、第1次再審請求の即時抗告審以降、激しく争われており、再審請求手続において検察官と請求人の双方が主張立証を重ねてきた。そのうち、「5点の衣類」に付着した血痕の色調に関しては、既に最高裁判所の判断を経て、差戻し後の即時抗告審において審理すべき点が具体的に示され、東京高等裁判所も、その判断を踏まえて実施した事実取調べの結果に基づき、静岡地方裁判所の再審開始決定を支持したものである。
 このような本件の審理過程に照らせば、本件では、憲法違反や判例違反といった適法な特別抗告の理由は、およそ見出すことができない。さらに、東京高等裁判所の決定が示した「5点の衣類」に関する疑問点は、既に静岡地方裁判所の再審開始決定が指摘していたことであって、検察官の即時抗告が誤っていたことは明らかである。このように、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを認めていることが、袴田巖氏をはじめとする、えん罪被害者の救済を著しく遅延させているのであって、その問題性は顕著である。

 ところで、本件については、今後、再審公判が開始される予定であるが、再審公判に関する刑事訴訟法の規定は、第451条、第452条の2か条しか存在せず、再審公判は、裁判所の裁量によるところが大きくなるものと予想される。
 しかし、上記のとおり、本件では、長期に及んだ再審請求手続において、争点について検察官と請求人の双方が主張・立証を尽くし、その結果、確定判決に合理的な疑いが生じたとの判断がなされている。このような審理経過に照らせば、本件の実質的な審理は、再審請求手続の段階で既に尽くされているというべきであって、もはや新たな有罪立証を行うことは許されない。それにもかかわらず、報道によれば、検察官は、本年4月10日に開かれた三者協議の場において、再審公判における立証方針を決定するために3か月を要するとして、明確な方針を表明していないとのことであり、再審公判手続の長期化が懸念される。袴田巖氏が87歳と高齢であることや、拘禁反応の影響と思われる心身の不調にも鑑みれば、再審公判では、再審請求手続における審理の蒸し返しを許すことなく、その成果を尊重して、迅速な審理により、袴田巖氏に対する無罪判決がなされるべきである。

 なお、当会では、2016(平成28)年9月27日の臨時総会において、「死刑廃止を求める決議」を採択し、その後も死刑執行に抗議する声明を繰り返し発出してきた。本件で無罪判決が確定すれば、5件目の死刑再審無罪事件として、死刑えん罪が現在でも存在していることが明らかとなる。

 よって、当会は、速やかに本件の再審公判を開始するとともに、袴田巖氏に対して一刻も早く無罪判決がなされるよう強く求める。
 当会は、再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止、再審請求手続における手続規定の整備を中心とする再審法改正を含む、えん罪の防止・救済のための制度改革の実現に、引き続き全力を尽くす所存である。

 2023(令和5)年6月13日

                           滋賀弁護士会
                                                                          会長 中 井 陽 一