会長声明・決議
特定商取引法の抜本的改正を求める会長声明
特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)は、訪問販売や電話勧誘販売、通信販売、連鎖販売取引(マルチ商法)などの消費者トラブルを生じやすい特定の取引類型を対象に、事業者による不公正な勧誘行為等の取り締まり等を行う法律である。
特定商取引法は、2016(平成28)年改正法の附則(第6条)において、「施行後5年を経過した場合に」「必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の措置を講ずるものとする」ことが定められているところ、2017(平成29)年12月1日の同改正法の施行から既に5年以上が経過した。
近年、認知症の高齢者等を対象とした訪問販売や電話勧誘販売による被害が増加傾向にあり、また、2022(令和4)年4月に民法上の成年年齢が引き下げられたことによって今後18歳・19歳の若年者の消費者被害の増加も予想される。このような状況を踏まえると、現行の特定商取引法について被害防止のために新たな「所要の措置」を講ずる必要性があることは明らかであり、被害が増加している取引類型を中心に、以下のような特定商取引法の改正を早急に行う必要がある。
第一に、「訪問販売」について、現行の特定商取引法第3条の2第2項では「契約を締結しない旨の意思」を表示した消費者を事業者が勧誘することを禁止しているところ、これを一歩進め、例えば「訪問販売お断り」といった貼り紙を家の門戸に貼付した場合には「契約を締結しない旨の意思」の表示に該当すること等を条文上も明確にすべきである。また、事業者が勧誘に先立って勧誘目的である旨等を明らかにすべきことを定めた特定商取引法第3条について、違反行為に対する十分な抑止力を確保するため、刑事罰規定の創設についても検討すべきである。
第二に、「電話勧誘販売」について、現行の特定商取引法第17条で「契約を締結しない旨の意思」を表示した消費者を事業者が勧誘することを禁止しているところ、これを更に進めて、例えばDo-Not-Call制度(電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録機関に登録し、登録された番号に事業者が電話勧誘することを禁止する制度)のような、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度を導入すべきである。また、事業者が勧誘に先立って勧誘目的である旨等を明らかにすべきことを定めた特定商取引法第16条について、違反行為に対する十分な抑止力を確保するため、刑事罰規定の創設についても検討すべきである。
第三に、「通信販売」について、現行の特定商取引法では、他の特定商取引法の取引類型と異なり、通信販売についてだけは、クーリング・オフや不実告知による取消権が設けられていない。しかしながら、通信販売においても、スマートフォンの急速な普及に伴い、インターネット(特にSNS)を利用した広告や勧誘を契機として消費者トラブルに発展するケースが多く見られるところ、これらについては「不意打ち性」の点で訪問販売や電話勧誘販売とその危険性において何ら変わりがない。また、インターネットを用いた勧誘であっても電話勧誘販売に該当する場合も多いところ、それにもかかわらず事業者が通信販売該当性を主張してクーリング・オフに応じない事案が多発しており、通信販売が事実上の抜け穴として悪用されている実態がある。したがって、通信販売にも、他の取引類型と同様の行政規制やクーリング・オフ制度・不実告知による取消権といった民事上の規制がなされるべきである。
第四に、「連鎖販売取引」においては、投資や副業などを対象とした「モノなしマルチ商法」が増加しており、その勧誘方法もSNS等を利用して勧誘者の素性も分からない場合も多く、個別の取引ごとに対応するのでは不十分な状況となっている。そこで、連鎖販売取引については、行政庁において事業者が行おうとする連鎖販売取引業の適法性・適正性等を事前に審査する手続を経ることを内容とする開業規制を導入すべきである。また、物品販売等の契約をした後に新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む、いわゆる「後出しマルチ」のトラブルも増加しており、その危険性は通常のマルチ取引と同様であることから連鎖販売取引の拡張類型として明文で規定すべきである。
以上のとおり、当会は、国に対し、早急に2016(平成28)年改正法の附則(第6条)の「所要の措置」として特定商取引法を抜本的に改正するよう求めるものである。
2023(令和5)年9月12日
滋賀弁護士会
会 長 中 井 陽 一