どんなお悩みでも、まずはご相談を!

滋賀弁護士会法律相談センター TEL077-522-3238
平日午前9時-正午
午後1時-4時

会長声明・決議

大阪空港公害訴訟事件における大法廷回付の経緯に関する調査等を求める会長声明

 2023(令和5)年4月19日、刑法学の第一人者であり、1974(昭和49)年から1983(昭和58)年まで最高裁判所裁判官を務めた団藤重光氏による直筆ノートが、保管先である龍谷大学により公開された。同ノートには、大阪空港公害訴訟事件の内幕に関する記載が見られた。
 大阪空港公害訴訟事件は、航空機の騒音被害を訴える住民が1969(昭和44)年に提訴し、国の責任が問われた事件である。1975(昭和50)年に二審である大阪高等裁判所で住民側が勝訴し、夜間飛行の差し止め等が認められた。国の上告を受け、最高裁判所では、当初、団藤氏が在籍する第一小法廷が事件を担当することとなった。1978(昭和53)年5月、弁論を経て結審し、同年中の判決言い渡しが予想されていた。ところが、同年7月、国から、事件を第一小法廷から大法廷へ回付するよう求める上申書が提出された。実際、事件は大法廷へ回付され、1981(昭和56)年12月、大法廷は、夜間飛行の差し止め請求を却下し、過去の損害賠償のみ認める判決を下した。
 上記の経過に関して、団藤氏のノートには、当時の第一小法廷の岸上康夫裁判長から聞いた話として、国から大法廷回付を求める上申書が提出された翌日、岸上氏が当時の岡原昌男最高裁判所長官の元へ相談に行った際、「たまたま村上元長官から長官室に電話があり、岡原氏が岸上氏に受話器を渡したところ法務省側の意を受けた村上氏が大法廷回付の要望をされた由」、「この種の介入は怪(け)しからぬことだ」と記載されている。なお、村上氏とは、1973(昭和48)年から1976(昭和51)年まで最高裁判所長官を務めていた村上朝一氏である。
 日本国憲法第76条第3項は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と定め、司法権の独立、裁判官の職権行使の独立が規定されている。大津事件ほか過去幾度となく外部もしくは内部から裁判の公正を揺るがされてきた司法権にとって、極めて重大な原理である。
 団藤氏のノートに記された、元最高裁判所長官が、現に事件を担当する裁判長に対し、法務省からの意向を踏まえ大法廷への事件回付を求めたことが事実であれば、司法権の独立を侵害する重大な憲法違反である。40年以上の時を経ても、その重大性は変わらない。
 当会としては、最高裁判所に対し、団藤氏のノートに記載されている事実関係について、徹底した調査を実施し、その結果を公表するよう求めるとともに、改めて、裁判に対する外部からの圧力や干渉を排除し、司法権の独立を徹底することによる司法への信頼確保に努めるよう求めるものである。


 2023(令和5)年10月11日

                                  滋賀弁護士会
                                    会長 中 井 陽 一