会長声明・決議
「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」に対する会長声明
2023(令和5)年8月4日、出入国在留管理庁は、「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「対応方針」という。)を発表した。
対応方針は、2023(令和5)年6月に改定された出入国管理及び難民認定法(以下「改定入管法」という。)の施行時までに、日本で出生して小学校、中学校又は高校で教育を受けており、引き続き日本で生活をしていくことを真に希望している子どもとその家族を対象に、今回に限り、家族一体として在留特別許可をするとしている。
退去強制令書の発付を受けても様々な事情により日本から退去できない者がいる。その中には、難民であることや日本に家族がいること等を理由に日本での在留を希望している者が多く含まれている。
そのような状況下において、従来の運用では在留特別許可の見込みがなかった子どもたちとその家族らの一部が、安定した法的地位を得て日本で生活を送れるようになることは歓迎すべきことであり、一定の評価ができる。しかし、対応方針には、以下に述べるとおり重大な問題点があり、対応方針によっても安定した法的地位を得られず苦しみ続ける子どもたちとその家族らが存在することについて非常に懸念する。
まず、対応方針は、子どもが「本邦で出生」したことを要件としているが、子どもの最善の利益(子どもの権利条約第3条第1項)を考慮するとの観点からみれば、日本で出生した子どもと、幼少期に来日し日本で育った子どもで、日本への定着性に違いはなく、出生によって区別する合理性はない。日本で子どもが成長してきた環境、人格を形成してきた過程に着目し、子どもの最善の利益を保護すべく、「本邦で出生」したという要件は撤廃すべきである。
次に、対応方針は、その対象として、日本で出生した「子ども」であること、すなわち、改定入管法施行日の時点で18歳未満であることを要件としているため、仮に日本で出生または幼少期から日本で成長していたとしても、18歳を超えてしまった者は対応方針の対象外となる。しかし、日本で生まれ育ち成人した者は、より一層日本に定着性を有し、生活基盤となっているはずである。また、18歳を超えているかどうかは対応方針の実施が遅きに失したという、本人が如何ともし難い事象によるものでもあるうえ、施行日という偶然の事情により対象に線引きがなされることに合理性はない。したがって、18歳を超えている者であっても、日本で出生した者や日本で育った者は対応方針の対象とすべきである。
また、対応方針は、親が入国・上陸の際に不法入国・不法上陸であったこと等の「親に看過し難い消極事情がある場合」は、基本的に対象外としている。しかし、親の消極事情について子どもには何ら責任はない。子ども自身が日本で生活していくことを望むのであれば、親の事情にかかわらず在留資格を与えるべきである。その上で、親だけを送還するか否かについては、家族結合権(自由権規約第17条、第23条)の保障や比例原則の観点から慎重に判断すべきである。
対応方針の要件に該当するような子どもたちとその家族らについては、前記の子どもの最善の利益や家族結合権の保障などが定められている国際人権条約を遵守し、在留特別許可に係るガイドラインが適正に運用されていれば、対応方針によらずとも、早期に在留特別許可が与えられるべきであったといえる。よって、対応方針がその措置を「今回に限り」と限定することは許されない。また、対応方針の要件等には、これまで述べたとおりの重大な問題点があることから、対応方針の対象は拡大されるべきである。
在留資格のないまま日本で生活する子どもたちは、当局の許可がなければ県外への移動ができず、アルバイト等の就労もできず、病気になっても健康保険を利用した医療を受けることさえできない過酷な生活を強いられている。
当会は、相互に人権と個性を尊重しながら多様性を活かして活躍できる多文化共生社会を目指し、他団体と連携する等して相談や支援の取り組みを進めてきた。かかる立場からも、特に、過酷な生活によって苦しむ子どもたちを一人として見過ごしてはならず、日本で生まれ、または日本で育った子どもたちやその家族らに対しては、国際人権条約や人道上の見地から、早期に安定した法的地位のもと生活できるよう積極的に在留資格を付与されることを強く求める。
2023(令和5)年11月15日
滋賀弁護士会
会長 中 井 陽 一