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会長声明・決議

地方自治法改正案に反対する会長声明

1 政府は、2024(令和6)年3月1日、地方自治法の一部を改正する法律案(以下「法案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。
 この法案では、新たに「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例」が設けられ、一定の要件のもと、国は、地方公共団体に対し、その事務処理について国民の生命等の保護を的確かつ迅速に実施するため講ずべき措置に関し、必要な指示ができることとされている(以下、「国の指示権」という。第252条の26の5)。
 しかし、この国の指示権を認めた規定は、以下のとおり問題である。

2 地方自治の基本原則からの問題点
(1)憲法第92条は、地方自治の基本原則として「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。」と定めている。
 この「地方自治の本旨」は、一般的には地方自治は住民の意思に基づいて行われるという住民自治の要素と、地方自治が国から独立した団体に委ねられ、団体自らの意思と責任のもとでなされるという団体自治の要素がある。この団体自治の要素は、住民に近い地方公共団体が国から独立して行政権を行使することによって、住民の人権が守られるという理念を基礎としている。
 国の指示権は、国が地方公共団体に対して介入する場面を拡大するものであり、団体自治の要素を弱めるものであって、安易に認めるべきではない。
(2)大規模災害及びコロナ禍については、災害対策基本法や感染症法などの個別法で国による指示権が規定されているのであるから、さらに今回、地方自治法を改正してより包括的な国の指示権を設ける必要があるのかが疑問であるが、その点について、法案提出の際に十分検討された形跡はない。
(3)2000(平成12)年4月に施行された「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(以下、「地方分権一括法」という。)は、「対等協力」の理念のもと、自治事務と法定受託事務とを区別して、自治事務に関する国の地方公共団体への指示権を謙抑的に規定している。
 ところが、法案は、自治事務と法定受託事務を区別せずに、国の指示権を規定しており、地方分権一括法が自治事務と法定受託事務とを区別した趣旨からも問題である。

3 要件についての問題点
 法案では、国の指示権が行使できる要件として「国民の安全に重大な影響を及ぼす 事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」、「地域の状況その他の当該事態に関する状況を勘案して」など曖昧な要件を定めている。
 そして、この要件該当性を判断するのは指示権を行使する側の内閣である。
 さらに、感染症法では国による指示権が行使できる場合の要件として、「緊急性」
の要件が定められているが、法案ではこの「緊急性」の要件を外してしまっている。
   法案が定めた上記要件では、国の指示権行使の濫用が懸念される。

4 以上の理由から、当会は、法案に反対するものであり、政府に対して法案の撤回を求めるとともに、国会に対し法案を廃案にすることを求める。

2024(令和6)年6月13日
                                   滋賀弁護士会
                                     会長 多 賀 安 彦