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会長声明・決議

旧優生保護法の最高裁判所大法廷判決を受けて、すべての被害者に対する迅速かつ全面的な被害回復を求める会長声明

1 2024(令和6)年7月3日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法により生殖を不能にする手術(以下「不妊手術」という。)を受けた被害者らが、国に損害賠償を求めた国家賠償請求訴訟の5件の上告審において、不妊手術を強制していた旧優生保護法の規定が憲法第13条及び第14条第1項に違反し、上記規定に係る国会議員の立法行為が、国家賠償法第1条第1項の適用上、違法であるとの違憲判決を言い渡しました。
また、賠償請求権が不法行為から20年の除斥期間(改正前民法第724条後段)の経過により消滅したものとして国が賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反するもので容認できず、国が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されない、として、裁判官全員一致で、国が賠償責任を負うことを明確にし、除斥期間に関する最高裁判例について、いずれも判例を変更する判決を下しました。
上記判決(以下、「2024年判決」という。)は、最高裁判所が旧優生保護法による被害者の声を真摯に受け止め、国が行った極めて非人道的かつ差別的な人権侵害に対して厳しく糾弾しており、司法府の役割を果たしたものとして高く評価されるものです。

2 1948(昭和23)年に制定された旧優生保護法は、特定の障害等を有する者が不良であるとの評価を前提とし、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的として、遺伝性疾患、ハンセン病、精神障害がある人等に対して強制的に不妊手術や人工妊娠中絶を受けさせることとしていました。
厚生労働省の資料によれば、1949(昭和24)年から1996(平成8)年に母体保護法へ改正されるまでの間に、旧優生保護法に基づいて不妊手術を受けた者の数は少なくとも約2万5000人、人工妊娠中絶を受けた者の数は約5万9000人に上るとされ、極めて多数の被害者を生み出しました。
 旧優生保護法の下で、疾患・精神障害のある多くの方が「不良」であるとの烙印を押され、偏見・差別を受けるだけでなく、子を産み育てるか否かを決定する自由を奪われ、個人の尊厳を著しく傷つけられました。
ある被害者の方は、妊娠が発覚したことを契機として人工妊娠中絶手術を受けさせられるとともに不妊手術を強制されました。強制的に中絶をさせられてお腹の中の子を亡くし、二度と子を産めない身体にさせられてしまったことに対する心情を考えたとき、その悲しみや喪失感はおよそ言葉では言い表すことができないほど大きいものです。

3 国は、一連の訴訟において、旧優生保護法が違憲であることを認めず、旧優生保護法の 下で行われた不妊手術は適法であると主張していました。
これに対し、2024年判決は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するという旧優生保護法の立法目的は、当時の社会状況をどのように考えたとしても正当とはいえず、特定の個人に対して生殖能力の喪失という重大な犠牲を求める点において、憲法第13条が宣言する個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反するとし、特定の障害を有する者等を不妊手術の対象者と定め、それ以外の者と区別することも合理的な根拠に基づかない差別的取扱いにあたるとして、旧優生保護法の規定は憲法第13条及び第14条1項に違反しているとしました。
また、本人の同意を得て行われる不妊手術についても、専ら優生上の見地から特定の個人に重大な犠牲を払わせようとするものであり、そのような手術について本人に同意を求めるということ自体が上記の精神に反して許されず、同意があることをもって不妊手術が強制にわたらないとはいえない。加えて、優生上の見地から行われる不妊手術を本人が希望することは通常考えられないが、周囲からの圧力等によって真意に反して同意せざるを得ない事態が容易に想定されるのに本人の同意が自由な意思であることを担保する規定が置かれていなかったことにも鑑みれば、これを受けさせることは実質において不妊手術を強制することに変わりないと明言しました。
当時の被害者が置かれていた大変困難な状況を正確に理解した判断であるといえます。

4 また、国は、一連の訴訟において、除斥期間を主張し、賠償責任を否定していました。
これに対し、2024年判決は、国の除斥期間の主張に対しても、①昭和23年から平成8年までの約48年間もの長期間にわたり、国家の政策として優生手術を行うことを積極的に推進し、上記施策が実施された結果、少なくとも約2万5000人もの多数の者が不妊手術を受け、これにより生殖能力を喪失するという重大な被害を受けるに至ったこと②不妊手術の主たる対象者が特定の障害等を有する者であり、その多くが権利行使について種々の制約のある立場にあったと考えられることからすれば、不妊手術が行われたことにより損害を受けた者に国に対する国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償請求権を行使することを期待するのは極めて困難であったこと③不妊手術を強制していた旧優生保護法の規定の問題性が認識されて平成8年に同規定が削除された後、国会において、適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講ずることが強く期待される状況にあったことから、国が損害賠償責任を免れることは著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないとし、国が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されないとしました。
国の除斥期間の主張を退け、多数の潜在的な被害者に対しても救済の道を開く画期的な判決といえます。

5 三浦守裁判官は、補足意見で、被害者の多くが既に高齢となり、亡くなる方も少なくな い状況を考慮すると、できる限り速やかに被害者に対し適切な損害賠償が行われる仕組みが望まれると指摘しており、立法によるすべての被害者を対象とした全面的な解決が求められています。
2024(令和6)年7月17日、岸田総理は、判決を受け、被害者である原告らと面会をして旧優生保護法が憲法違反であることを認め、政府を代表して謝罪をしました。その中で岸田総理は、国会とも相談をし、新たな補償の在り方について早急に結論を出すべく全力を尽くすと述べました。
 そこで、当会は、国に対し、判決の意義を十分に理解し、岸田総理が被害者に誓約した内容が確実に実現されるよう、すべての被害者に対する迅速かつ全面的な被害回復に向けた立法措置を講ずることを求めるとともに、国が社会に深く根付かせた優生思想に基づく偏見・差別を解消する取り組みをより一層推進することを求めます。
当会としても、旧優生保護法の被害者が十分な補償を受けられるよう、日本弁護士連合会とともに、引き続き被害者に対する法的支援に全力で取り組む所存です。

2024(令和6)年8月23日
滋賀弁護士会
会 長 多 賀 安 彦