どんなお悩みでも、まずはご相談を!

滋賀弁護士会法律相談センター TEL077-522-3238
平日午前9時-正午
午後1時-4時

会長声明・決議

調停委員の任命について国籍による不合理な差別を直ちに解消することを求める会長声明

 最高裁判所は、現在、日本国籍を有しない者を調停委員に任命しない取扱いをしている。そのため、裁判所からの推薦依頼に基づき、各地の弁護士会が外国籍の会員弁護士を調停委員の候補者として推薦しても、各裁判所は最高裁判所へ任命上申しないことを繰り返している。

 

 この点、最高裁判所は、日本弁護士連合会からの照会に対し、調停委員は日本国籍が必要となる「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」に該当することを上記取扱いの理由として回答しその根拠として調停調書の記載が確定判決と同一の効力を有することなどを挙げる。

 

しかし、そもそも調停とは、紛争の当事者間において、条理にかない実情に即した適正妥当な合意の成立を目指すという紛争の自主的解決を図る制度であるところ、調停委員はかかる調停において、当事者と一緒に紛争の実情にあった解決策を考えるために当事者の言い分や気持ちを十分に聴取する等して合意の形成を目指すことをその職務とするものである。また、調停調書は当事者が合意して初めて成立するもので、調停委員が強制的な権限を持つものではない。このような調停委員の職務に照らすと、調停委員は「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」には該当しない。

 

加えて、過去には外国籍の弁護士が調停委員に任命された例があること、同じく非常勤の公務員である保護司、刑事視察委員会視察委員、入国者収容所等視察委員には外国籍の弁護士が任命されていること及び種々の権限と公的役割を担う破産管財人、相続財産清算人、不在者財産管理人等にも外国籍の弁護士が選任されていること等に照らすと、最高裁判所の上記取扱いに合理的理由がないことはより一層明らかとなる。

 

 したがって、最高裁判所が、調停委員について、その職務内容を考慮することなく「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」に該当することを理由に日本国籍を有しない者を一律に任命しない取扱いをすることは、国籍による不合理な差別であり、憲法第14条第1項に反するといわざるを得ない。

 

 弁護士は、弁護士法に基づいて、日本国籍の有無にかかわらず日本弁護士連合会及び所属弁護士会に登録し、その職務を遂行しているところ、各地の弁護士会は、日本国籍の有無にかかわらず、その職務遂行に照らし、資質、経験、人格とも調停委員となるにふさわしい弁護士を、裁判所の依頼に基づいて責任をもって調停委員に推薦している。最高裁判所が上記取扱いを続けることは、弁護士を日本国籍の有無によって差別し続けることに他ならない。当会は、各地の弁護士会が推薦した弁護士に対し繰り返されているかかる差別的取扱いを見過ごすわけにはいかない。

 

また、2024(令和6)年6月末時点の日本に在留する外国籍の者は、358万人を超えており、過去最高を更新している(令和6年10月18日出入国在留管理庁報道発表資料)。多くの外国籍の者が日本社会において暮らしていることを踏まえれば、私人間の紛争解決に大きな役割を果たしてきた調停制度においても、弁護士に限らず外国籍の調停委員が関与することは、ひいては多文化共生社会の実現にも資するものといえる。

 

 以上により、当会は、日本国籍を有しない者を調停委員に任命しないとする最高裁判所の取扱いについて、各地の弁護士会とともに強く抗議し、国籍による不合理な差別を直ちに解消するよう強く求める。

 

2025(令和7)年3月12日

           滋賀弁護士会  

             会 長  多 賀  安 彦