会長声明・決議
裁判所速記官養成の再開を求める会長声明
裁判所速記官養成の再開を求める会長声明
1 裁判は、公正・適正、迅速に行わなければならない(憲法第31条、同法第37条第1項、刑事訴訟法第1条、民事訴訟法第2条、裁判の迅速化に関する法律第2条)。そのためには、裁判手続における当事者その他関係人の尋問及び陳述を詳細かつ正確に録取し、かつ、その調書等を迅速に作成することが必要不可欠である。
そこで、裁判所法第60条の2第1項は、かかる要請を実現するため、「各裁判所に裁判所速記官を置く」と規定する。
2 ところが、最高裁判所は、1997(平成9)年、裁判所速記官の養成停止を決定し、翌年度から裁判所速記官の養成を停止した。
そのため、1997(平成9)年には825名であった裁判所速記官が、2024(令和6)年4月には131人にまで減少し、その結果、裁判所速記官配置庁は、高等裁判所は、かつては8庁全てに配置されていたのが0となり、また、地方裁判所本庁では49庁(那覇を除く全庁)から29庁に、地方裁判所支部では19庁に4庁に、それぞれ減少となった。
3 最高裁判所は、裁判所速記官による調書等の作成に代え、質問及び応答を録音し、民間業者に反訳を委託する方式を採用した。
しかし、この「録音反訳方式」は、裁判所速記官による調書の作成に比して日数がかかることに加え、法廷で直接質問及び応答を聞いていない民間業者が反訳するため、完全な逐語化がなされているか疑義があり、かつ、法律用語に精通していないため、誤字・脱字、意味不明な箇所が多数見受けられるとの報告がなされている。
これに対し、裁判所速記官が作成する速記録は、電子化した速記機械と反訳ソフトウェアの開発により、質問及び応答を直ちに文字化することができ、速記録の作成も即時に行うことが可能となっている。
また、裁判所速記官は、法律用語にも精通し、かつ、法廷での立会いをしているため、速記録の内容は正確ということができる。
したがって、「録音反訳方式」による調書作成より、裁判所速記官による速記録作成の方が、公正・適正かつ迅速な裁判手続を行うという憲法や法律の趣旨実現にはるかに資するといえる。
2009(平成21)年5月に始まった裁判員裁判においては、裁判官とともに、法廷に不慣れな一般市民が裁判員として審理に参加し、法廷における供述を主な証拠として、連日的開廷の公判が行われる。そこでは、正確な速記録が大変大きな意義を持つ。ところが、裁判所速記官が圧倒的に不足しているため、速記録なしでの審理を余儀なくされている実情がある。
4 当会は、2014(平成26)年1月に「裁判所速記官の活用及び養成再開を求める会長声明」を発出した。しかし、その後も裁判所速記官の養成は再開されず、2015(平成27)年には200人いた裁判所速記官の数が2024(令和6)年には131人まで減少した。
5 養成停止に伴う裁判所速記官の減少が裁判に与える影響は大きい。例えば、袴田事件の再審公判において、2024(令和6)年3月25日から27日にかけて専門家証人の対質尋問が行われた。その際、早期結審のために検察官及び弁護人から裁判所に対して裁判所速記官の立会いを求めたが、裁判所はその要請に応じなかった。再審公判が行われた静岡地方裁判所に裁判所速記官が配置されていないことが影響した可能性が高い。
6 以上より、当会は、最高裁判所に対し、速やかに裁判所速記官の養成を再開することを強く求める。
2025(令和7)年4月17日
滋賀弁護士会
会長 相 馬 宏 行