会長声明・決議
国際刑事裁判所に対する不当な圧力に反対し、国際刑事裁判所の独立性と公正性を守ることを求める会長声明
国際刑事裁判所(International Criminal Court。以下「ICC」という。)は、集団殺害犯罪(ジェノサイド罪)、人道に対する罪、戦争犯罪及び侵略犯罪を行った個人を訴追し、処罰するため、条約(ICC規程)に基づいて設置された歴史上初の国際的な刑事裁判所である。現在、125の国と地域がICC規程に加盟しており、日本も2007(平成19)年に加盟し、最大の拠出金分担国であるとともに、複数の裁判官を輩出し、現在の所長は日本人の赤根智子氏である。
ICCの目的は、冷戦終了後の内戦や地域紛争の激化により、一般市民が人類の良心に深く衝撃を与える想像を絶する残虐な行為の犠牲者となってきたこと等を受けて、人権の尊重と人道主義といった国際社会共通の価値を毀損するジェノサイド等のICC対象犯罪を行った者について、処罰を免れさせず、厳正に処罰することによって正義と法の支配を貫徹し、もってこれらの犯罪を予防することであり、かかる目的を達成するためには、ICCの独立性と公正性は固く守らなければならない。
しかるに、近年、ICCの権限行使に対して報復的措置をとる国家が現れて、ICCの独立性と公正性に重大な影響を与えようとしている。
ICCは、2023(令和5)年3月、ロシアによるウクライナの子どもたちに対する不法な追放と移送という戦争犯罪の容疑で、ロシアのプーチン大統領らに逮捕状を発付した。これに対し、ロシアは、逮捕状請求をしたICCの主任検察官や、当時予審裁判部の判事であった赤根智子氏らを指名手配した。
また、ICCは、2024(令和6)年11月、パレスチナ・ガザ地区での戦闘をめぐり、民間人を飢餓に陥らせたこと等の戦争犯罪及び人道に対する犯罪の容疑で、イスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を発付した。これに対し、米国議会下院は、ICC関係者らの在米資産の凍結や入国停止等の制裁を可能とする法案を可決した。この法案は米国議会上院で否決されたものの、トランプ大統領は、同じ内容の制裁を可能とする大統領令に署名し、ICCの主任検察官を制裁対象者と指定した。さらに、トランプ政権は、2025(令和7)年6月、ICCの4人の裁判官に制裁を科すと発表した。
かかるICC及びその関係者に対する報復措置は、ICCの独立性と公正性に重大な影響を与え、その刑事司法機能を損なわせるものであり、ひいては、人権の尊重と人道主義といった国際社会共通の価値を軽視し、法の支配に背く行為といえる。
当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律専門家団体として、ICCに対する不当な圧力に断固反対するとともに、日本政府に対し、ICC加盟国として、ICCの立場を支持し、その独立性と公正性に重大な影響を与える行為は絶対に許されないという立場を明確にし、ICCに対する報復措置には直ちに撤回することを働きかけるよう求めるものである。
2025(令和7)年7月15日
滋賀弁護士会
会長 相 馬 宏 行