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会長声明・決議

刑事訴訟法の一部を改正する法律の成立に関する会長声明

 

刑事訴訟法の一部を改正する法律の成立に関する会長声明

 

 本年7月17日、刑事再審手続に関する「刑事訴訟法の一部を改正する法律」(以下「本改正法」という。)が参議院本会議で可決され、成立した。

 

 本改正法は、1948(昭和23)年に現行刑事訴訟法が制定されてから78年を経て初めて、再審法(刑事訴訟法第4編再審)の改正がなされたという点で、極めて大きな意義を有する。

いわゆる日野町事件(再審公判手続中)や湖東記念病院事件(再審無罪確定)など、複数のえん罪事件を抱える滋賀県においても、えん罪被害者とそのご家族、市民の方々、支援団体、地方議会議員の方々によるご尽力のもと、滋賀県議会及び県内全19市町議会で再審法改正を求める旨の意見書が採択され、当会としても、今般の再審法改正運動を陰ながら支えてきたものである。

 

そして、本改正法は、①これまで裁判所の裁量に委ねられていた刑事再審事件の審理の進め方について一定の規律を設けた点、②再審請求の対象となる確定判決に関与した裁判官を再審請求の審理から除斥している点、③一定の要件を満たす場合には、裁判所が検察官に対して証拠の提出を命じることを義務付けている点、④再審開始決定に対する検察官の不服申立てを原則として禁止している点など、制度面で一定の進化があったと評価できる部分もある。

 

 他方で、本改正法は、えん罪被害者の適正かつ迅速な救済という法改正の目的に照らせば、以下のとおり、不十分な内容であるといわざるを得ない。

まず、本改正法では、裁判所が検察官に対して、再審請求人や弁護人が主張立証を準備するために必要な証拠の提出や開示を要請する権限が明記されていない。証拠の持つ価値を正しく理解できるのは第一に再審請求人や弁護人であり、これらの者による分析・検討と、それに基づく主張がなければ、裁判所が証拠の関連性や必要性を的確に判断することができず、再審開始決定や無罪につながる重要証拠の提出命令が発せられない懸念がある。

また、本改正法では、証拠一覧表の作成・提出を検察官に命じる制度が設けられていない。証拠一覧表は、検察官が保管する証拠の全体像を明らかにするものであり、再審請求人や弁護人に対して証拠の提出・開示を請求するための手がかりを与えるものとして重要であるとともに、検察官が証拠の保管状況を把握する上でも有用なものであるが、証拠一覧表に関する制度が設けられないために、証拠の開示・提出に向けた手続が円滑に進まなかったり、再審請求の審理のために必要な証拠の提出・開示に漏れが生じることが懸念される。

さらに、本改正法では、検察官から裁判所へ提出された証拠の複製を再審請求やその準備以外の目的で使用することを一律に禁止し、その違反に対して罰則を設けている。しかし、被害者等関係者の名誉・プライバシーの保護は必要であるものの、証拠の内容に応じて適当と認める利用の条件を付するなど、個別に対応すれば足りるのであって、弊害の有無・程度を問うことなく、全ての証拠について一律に使用を禁止するのは過度の制約といわざるを得ない。このような目的外使用の一律禁止により、再審請求人や弁護人が証拠の内容を支援者や報道機関に提供することを躊躇し、事件の問題点を広く知らせたり、新証拠獲得に向けた活動に支障を来すことが懸念される。

加えて、本改正法では、再審開始決定に対する検察官の不服申立てが原則禁止されたものの、再審開始決定が「取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠」がある場合には、例外的に不服申立てを行うことを許容している。過去のえん罪事件における検察官の対応に照らせば、検察官が今後も自制せずに不服申立てを行うことが懸念される。

 

 以上のとおり、本改正法には今なお不十分な点が多く存在している。日野町事件や湖東記念病院事件の例からも明らかなように、再審開始決定や無罪に直接つながり得る重要証拠が捜査機関によって隠蔽等されるとともに、再審開始決定に対する検察官の不服申立てによって、えん罪被害者の救済に長い歳月と多大な労力を要することになった幾多の反省が、十分活かされたとはいい難い。

もっとも、本改正法が成立した以上、個々の刑事再審事件を通じて、本改正法がえん罪被害者の適正かつ迅速な救済という法改正本来の目的に沿って適切に運用されることが、何より重要である。また、本改正法の附則にある5年ごとの見直し条項に基づき、今後も本改正法の施行状況を検討する必要がある。

 

 当会は、本改正法が適切に運用されるよう注視するとともに、えん罪被害者をすみやかに救済するために、刑事再審制度のさらなる改善に向けて、引き続き力を尽くす所存である。

 

2026(令和8)年8月12日

               滋賀弁護士会       

               会長  遠 藤  大 輔