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会長声明・決議

国際刑事裁判所(ICC)赤根智子所長らに対する制裁措置に反対し、国際刑事裁判所の独立性と公平性を守ることを求める会長声明

   米国政府は、2026(令和8)年8月18日、国際刑事裁判所(International Criminal Court。以下「ICC」という。)の赤根智子所長及び上級法廷弁護士のアブドゥライ・セイ氏を大統領令14203号に基づく制裁対象者に指定した(以下、「本制裁」という。)。これにより、赤根所長らは、米国内の資産の凍結、米国への入国の禁止、米国人・米国企業との取引の制限等の対象となる。既にクレジットカードの利用や送金ができなくなっている等、日常生活上の重大な影響を受けており、今後も拡大するおそれがある。

 米国政府は、近年、ICCの弱体化を目的として、ICCの検察官や裁判官らに制裁を科しており、本制裁もその一環として行われたものである。マルコ・ルビオ国務長官は、本制裁の理由として、赤根所長らがICCの管轄権に同意していない国の国民等の訴追に関与したことを挙げ、ICCが腐敗し、政治化した超国家的裁判所であり、悪意をもって権限を濫用している等と非難したと報道されている。

 

ICCは、集団殺害犯罪(ジェノサイド罪)、人道に対する罪、戦争犯罪及び侵略犯罪を行った個人を訴追し、処罰するため、条約(ローマ規程)に基づいて設置された国際的な刑事裁判所である。内戦や地域紛争の激化により一般市民が人類の良心に深く衝撃を与える想像を絶する残虐な行為の犠牲者となってきたこと等を受け、人権の尊重と人道主義といった国家社会共通の価値を毀損するICC対象犯罪について処罰を免れさせず、厳正に処罰することを通じて正義と「法の支配」を実現し、もってこれらの犯罪を予防する役割を担っている。

殊に、犯罪行為地国や被疑者の国籍国で処罰しきれない犯罪のうち特に重要なものについてICCにおいて訴追するという補完性の原則(ローマ規程第17条参照)のもと、最も重大な国際犯罪の被害者にとってICCは「最後の希望」であり、まさに「法の支配」の砦ともいうべき国際的司法機関である。

 

ICCは、締約国ないしICCの管轄権を受諾する宣言を行った国の領域内で行われた、前記の最も重大な国際犯罪について、被疑者の国籍にかかわりなく管轄権を有する(ローマ規程第12条第2項、同第3項)。被疑者の国籍国がICCの管轄権に同意していないとしても、犯罪行為地国が締約国ないし受諾宣言を行った国であれば、ICCの管轄権は及びうる。

例えば、ICCは、2024(令和6)年11月、パレスチナ・ガザ地区での戦闘をめぐる戦争犯罪及び人道に対する犯罪の容疑でイスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を発付している。犯罪行為地国であるパレスチナは2015(平成27)年にローマ規程を批准し、ICCの締約国となっているため、ガザ地区でイスラエルによる戦争犯罪等が行われた疑いがある場合、ICCはローマ規程に基づきイスラエル指導者個人に対して逮捕状を発付する正当な権限を有する。しかるにこれを受け、米国政府は、逮捕状発付に関与したICCの検察官・裁判官らに制裁を科している。

赤根所長をはじめとするICCの裁判官や検察官らは、ローマ規程に従い管轄権の及ぶ事件について正当な職務行為に従事しただけであり、制裁を受ける理由は全くない。ICCが腐敗し、政治化した超国家的裁判所であり、悪意をもって権限を濫用しているような事実も確認されていない。

本制裁は、司法官が法に基づいてその職務を遂行したことを理由として、当該司法官個人に重大な不利益を課すものである。司法を政治的な圧力に従属させる結果を招きかねないこのような制裁措置は、ICCの活動能力を阻害し、その刑事司法機能を損なうものであり、極めて不当な制裁であると言わなければならない。

また、ICC所長に対する制裁は、ICCの他の裁判官及び職員、さらにはICCに協力する各国政府、企業及び市民社会に対しても、同様の不利益を受ける可能性を意識させ、その活動を萎縮させるおそれがあり、国際刑事司法の枠組みそのものを弱体化させることにつながりかねない。

 

当会は、2025(令和7)年7月15日、「国際刑事裁判所に対する不当な圧力に反対し、国際刑事裁判所の独立性と公正性を守ることを求める会長声明」を発出し、米国政府による制裁を含むICCに対する不当な圧力は、「法の支配」に背く行為であり、これに断固反対する旨を表明した。

赤根所長らに対する本制裁は、ICCの独立性と公正性に重大な脅威をより一層与えることによって、最も重大な国際犯罪の責任追及を免れるという不正義を生み出し、その被害者の最後の希望さえも奪おうとするものである。これは、国際社会における「法の支配」を根本から損なわせるものというべきであり、ICCに対する不当な圧力に改めて反対するとともに、日本政府に対し、次のとおり求める。

 1 「法の支配」を外交の柱とする立場から、本制裁が理由のない不当な制裁であるとして、ICCに対する報復措置を直ちに撤回することを働きかけるよう求めるとともに、改めてICCを支持し協力する立場であることを明確に表明すること。

 2 他のICC締約国と直ちに連携し、米国政府等による不当な圧力によって締約国が脱退などを決めないよう必要な支援をするとともに、共同声明の発出その他共同の行動を主導すること。

 3 赤根所長をはじめとするICCの職員、ICCに協力する者や法人が米国政府等による不当な圧力によって不利益を受けないよう、保護するためのあらゆる支援を直ちに検討すること。

 

 当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律専門家団体という立場から、国際社会における「法の支配」の砦であるICCの活動を固く支持することを表明する。

 

2026(令和8)年9月15日
                                                        滋賀弁護士会
                                                                               会長 遠 藤 大 輔