会長声明・決議
合意による弁護士報酬敗訴者負担法案に反対する会長声明
第159回通常国会に、合意による弁護士報酬敗訴者負担制度の導入を内容とする「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」が上程されたが、審議未了のまま継続審議とすることが決まり、秋の臨時国会で本格的に審議されようとしている。
本法案は、弁護士報酬について、原則として従来どおりに各自負担としつつ、訴訟提起後に当事者双方に訴訟代理人がついて合意した場合には弁護士報酬の一部を敗訴者に負担させるというものである。
本法案の一番大きな問題点は、裁判外での私的契約に「この契約に関して訴訟で敗訴した者は勝訴した者の弁護士報酬を負担する」との条項(「敗訴者負担条項」)が盛り込まれた場合に生ずる弊害に対する手当てが何らなされていないことである。
私的契約に「敗訴者負担条項」が記載されている場合には、その条項に基づいて勝訴者は敗訴者に弁護士報酬を請求できると考えられている。こうした中で、合意による敗訴者負担制度が導入されると、そのことが誘因となって裁判外での私的契約や約款に弁護士報酬の「敗訴者負担条項」を記載することが広がっていくおそれがある。実際、消費者や労働者、中小零細業者などの弱い立場にある事業者は、私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」が記載されていてもこれを拒むことは事実上不可能であり、合意による敗訴者負担制度が導入された場合には、消費者契約、労働契約、フランチャイズ契約や下請契約など力の格差のある事業者間の契約などに「敗訴者負担条項」が記載されることが多くなると予想される。そして、現実に紛争が生じて裁判を利用しようとしたときに、私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」が存在していれば、消費者、労働者、中小零細事業者などの弱い立場にある人は、敗訴したときの弁護士報酬の負担を恐れて裁判の利用を躊躇することになり、市民、特に弱者の司法へのアクセスを阻害し、その裁判を受ける権利を侵害することになってしまう。
当会は、合意による弁護士報酬の敗訴者負担を導入するにあたっては、このような弊害を取り除くことが不可欠であると考えるものであり、以下のような立法上の手当てがなされない限り、本法案を廃案とすることを強く求める。
(1) 消費者契約、労働契約(労働協約、就業規則を含む)、一方が優越的地位にある事業者間の契約などに盛り込まれた敗訴者負担条項は無効とすること。
(2) 消費者訴訟、労働訴訟、一方が優越的地位にある事業者間の訴訟においては、訴訟上の合意による敗訴者負担制度を適用しないこと。
2004(平成16)年8月2日
滋賀弁護士会 会長 桐山郁雄