会長声明・決議
「日野町事件」再審請求棄却決定に関する会長声明
去る3月27日、大津地方裁判所は、再審請求阪原弘氏に対する再審請求事件について、再審請求を棄却する旨の決定を出した。
同事件は、1984年12月、滋賀県蒲生郡日野町で発生した。1988年に阪原氏が強盗殺人罪の被疑事実により逮捕、そして起訴され、2000年9月、上告棄却により無期懲役の判決が確定した。
確定した有罪判決は、直接的な物的証拠がないばかりか、状況証拠としても阪原氏と犯人を結びつけるものがなく、任意性と信用性に問題のある自白しかないなかで出されたものであった。阪原氏は、取調段階では自白をさせられたものの、第一審以来今日まで一貫して無実を叫び続けてきた。そして、2001年11月、本件再審請求がなされた。
再審請求においては、弁護団から、64点にも及ぶ、いずれも重要な新証拠が提出された。最高裁白鳥・財田川決定は、再審における新証拠の明白性判断について、当該新証拠と他の前証拠を総合的に判断すべきとし、その判断にあたっては、「『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則が適用されるものと解すべきである」とし、この判断基準が判例として確立している。
ところが、本件棄却決定は、総論としては新旧証拠の総合的評価を行なうと述べながらも、各論では、各証拠を分断して個別に判断を行なった。また、その判断の場面でも、新証拠等に基づく弁護団の主張を相当程度認めながら、「そうではない可能性もある」「(自白内容と客観的証拠に矛盾があっても)これらは記憶違いに基づくものと説明することが可能」等の理由を付して、最終的に弁護団の主張をいずれも退けた。例えば、新証拠により、阪原氏の殺害態様についての自白が、死体の損傷状況と矛盾することが明らかになったが、それについても記憶違いで説明が可能と片付けてしまった。殺害態様を忘れる殺人犯人は通常考えられず、そこには、「疑わしきは被告人の利益に」という理念は全く見られない。このように、本件棄却決定は、新旧証拠の総合評価をしていない点及び「疑わしきは被告人の利益に」との鉄則に反している点で、明らかに、最高裁白鳥・財田川決定により確立された判断基準に反する。
さらに、本件棄却決定には、一度自白をすれば、それを金科玉条のものとする自白偏重主義、捜査官による違法捜査は通常なされないとする考え方等も根底に見受けられ、まさに、刑事司法の問題点として指摘されている点が凝縮されていると言わざるを得ない。
このような再審理念に反する棄却決定に対し、阪原氏は直ちに即時抗告を行なった。本件は滋賀の地元事件であり、当会も、再審開始に向けて、あらゆる努力を惜しまないことをここに表明する。
2006(平成18)年 4月14日
滋賀弁護士会 会長 羽座岡広宣