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会長声明・決議

被害者の刑事手続参加制度の新設に反対する会長声明

本年3月13日、「被害者参加制度」の新設を含む「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に上程された。

新設されようとしている「被害者参加制度」は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族(以下「犯罪被害者等」という。)に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、自ら被告人に対して行う質問、証拠調べ終了後の弁論としての意見陳述(求刑を含む、事実と法令の適用に関する意見陳述)を認める制度である。

確かに、これまで、犯罪被害者等に対する保護・支援は、経済的補償の面でも、また医療・精神的ケアの面でも、十分ではなかった。犯罪被害者等補償法の制定及び公費による被害者の弁護士選任制度の導入、その他、早急な手当が必要である。

しかしながら、「被害者参加制度」には、次のような刑事司法の根幹に関わる様々な問題点があり、被害者保護のためにも必ずしも適していると考えられない面があるなど、現時点で、被害者保護・支援策の一環として導入することには、反対せざるをえない。

第1に、法廷が復讐の場と化する危険があり、被告人の防御権を実質的に侵害することである。

近代刑法は、刑罰権国家独占の原則をとっている。私的復讐が禁じられ加害者が国家により処罰されることで、被害者が加害者からの復讐から守られ、そして報復の連鎖を防ぐ仕組みである。そしてわが国の刑事裁判は、刑罰権を行使する立場の検察官と被告人・弁護人が対等当事者として、適正手続の保障を受ける中で、攻撃防御を尽くすことにより、真実を発見する、当事者主義の構造をとっている。

ところが、犯罪被害者等を法廷で、生の声で被告人に対峙させると、法廷が犯罪被害者等からの復讐の場と化し、また、被告人から犯罪被害者等への反発、逆恨みの感情を生む可能性すら生じる。国家が刑罰権を独占した趣旨に反して、報復の連鎖が復活する恐れがある。そのような事態は、犯罪被害者等にとっても望ましくない。

結果が重大な事案においては、現行の手続においても、被告人が結果の重大性に打ちひしがれて、言いたいことをいえない心理になりがちである。犯罪被害者等が参加人として加わっている手続では、一層、被告人は、沈黙せざるを得ない。

しかし、特に、正当防衛の成否、被害者の落ち度、過失の存否、殺意の有無など、重大な争点については、それらの争点について、被告人、弁護人が、十分に犯罪の成否、情状に関わる被告人に有利な主張を展開でき、それを立証するための詳細な供述を行える条件が確保されることが、公正な裁判のために不可欠である。「被害者参加制度」は、そのような主張や供述を甚だしく困難にすることにより、被告人の防御権を実質的に侵害し、適正手続による真実発見を歪める危険がある。

第2に、犯罪被害者等は、被告人が加害者であるという前提で、被告人質問や論告求刑などの訴訟活動を行うことになるが、事実認定と量刑が分離されていない手続のもとで、無罪推定原則に抵触する可能性がある。

第3に、犯罪被害者等の意見や質問が過度に重視され、証拠に基づく冷静な事実認定や公平な量刑と離れた方向に裁判が誘引されることが懸念される。犯罪被害者等は、十分に証拠を把握している立場になく、検察官と異なって証拠に基づく訴訟活動をすることを要求することそのものに無理がある。また、犯罪被害者等に、同種被告事件との均衡等を考慮した求刑を要求することにも無理がある。

特に、裁判員制度には、大きな影響が及ぶ可能性が高い。法の専門家でない裁判員にあっては、犯罪被害者等の感情に接して、証拠に基づく冷静な事実認定や公平な量刑が難しくなる恐れは、一層否定できない。

そのほか、「被害者参加制度」が、現行の刑事訴訟の、検察官と被告人・弁護人との二当事者の構造を変容させるおそれがあることや、犯罪被害者等の生の声を伝えるという要請については、既に、犯罪被害者等の意見陳述制度が導入されていることを指摘する。

上述のように、「被害者参加制度」には、刑事司法の原則に照らしても、刑事司法の実務運営に与える影響の面においても、検討すべき点が多々あるにもかかわらず、国民への問題提起や国民の間での議論もほとんど行われてはいない。本年3月7日、「被害者と司法を考える会」が法務省に対して制度の見直しを求める要望書を提出したことが報じられており、犯罪被害者等の中にも、「被害者参加制度」に賛成しない意見があることも明らかになっている。

よって、当会は、現在審議中の「被害者参加制度」の導入に、反対の意見を表明する。

2007(平成19)年4月10日

滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里