会長声明・決議
日本国憲法の改正手続に関する法律案に反対する会長声明
現在開催されている第166回国会において、与党である自民党・公明党が「日本国憲法の改正手続に関する法律案」を、民主党が「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」を、衆議院に提出し、審議中である。
当会は、2006(平成18)年1月30日、「憲法改正国民投票法案の国会提出に反対する会長声明」を発し、当時の、自民、公明、民主3党がまとめた憲法改正手続に関する法律の案に関して、憲法改正の国民投票という最大の重要問題であるにもかかわらず、十分な国民的議論を尽くすための環境の整備を図るどころか、逆に、議論を制限するような条項が多く含まれていることを指摘し、人権擁護を使命とする弁護士会としての強い懸念を表明した。
日本弁護士連合会、また各単位弁護士会からも、多数の反対声明、問題点の指摘がなされてきた。
しかし、今、現に審議中の上記各法案は、基本的には、当時の枠組みのままの法案であり、次のような問題点がある。
1.発議から投票までの期間が60日以後180日以内とされており、憲法改正という重要問題についての議論の期間としてあまりに短すぎる。
2.複数の条項についての改正案が発議される場合には、それぞれの条項について個別に賛否を投票できる方式でなければ、国民の意思を正確・適切に反映させることはできない。ところが、両法案においては、憲法改正原案の発議を、「内容において関連する事項ごとに区分」して行うものとされている。国会の多数派が、「内容において関連する」とした事項については一括して投票することになり、国民の意思の正確・適切な反映の観点から問題である。
3.与党案では有効投票総数の2分の1を越えた場合、民主党案では投票総数の2分の1を越えた場合、国民投票で承認と扱われる。しかも、最低投票率の定めは無く、憲法改正の要件として有権者の一定割合以上の賛成があることを要求する規定もない。そのため、投票率が低ければ、国民の少数の賛成で、憲法改正が行われ、国民意思と乖離した結論になってしまう。与党案によれば、有効投票率が低ければ、一層その傾向が顕著に表れる。
4.憲法改正国民投票に向けての広報のしくみが、国会多数派に有利に帰する内容になっており、憲法改正という重要事項に関して、公平に情報を流通させて、国民の議論に十分な素材を提供するという要請に十分応えるものになっていない。
憲法改正国民投票に向けての広報機関として設けられる「広報協議会」の委員の員数は、国会会派の所属議員数の比率が基本とされる。
また、政党等が憲法改正案に対する意見を無料でテレビ、ラジオで放送し、新聞広告できる制度が設けられるが、その放送時間、広告寸法は、所属国会議員数が基本とされるからである。
5.憲法改正という、国の根本に関わる重要問題については、とりわけ、自由かつ公正な討論や意見表明の機会が保障されなければならない。
ところが、公務員、教育者の地位利用による国民投票運動を禁じ、国民投票に対しての組織的多数人買収及び利益誘導罪を定める(与党案)、職権濫用による国民投票の自由妨害罪を設ける(民主党案)など、各法案では、表現の自由に対する萎縮的効果の大きい、過度の規制がなされている。
国民投票の7日前(日数をより長くする変更案あり)からは、上記無料放送以外のテレビラジオでの意見広告放送が禁じられる。
これらは、表現の自由に対する制約として、過度のものである。
6.国民投票無効訴訟は国民投票の結果の告示から30日以内に提起しなければならず、管轄は東京高等裁判所のみとされ、要件として極端に制約的にすぎて妥当でない。
憲法改正国民投票に関する手続においては、表現の自由が十分保障されることが要求され、また、国民主権の観点からは、国民の意思が十分忠実に反映できる手続であることが必要であるが、上記に指摘したように、上記各法案は、これらの要請に反している。
よって、当会は、「日本国憲法の改正手続に関する法律案」(与党案)にも、「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」(民主党案)にも、反対の意見を表明する。
2007(平成19)年4月10日
滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里