会長声明・決議
『少年警察活動規則の一部を改正する規則』案における「ぐ犯調査」権限の新設に反対する会長声明
2007年9月、警察庁は、『少年警察活動規則(平成14年国家公安委員会規則第20号)の一部を改正する規則』案(以下、「規則案」という。)を公表した。
規則案にはいくつかの問題があるが、とりわけ、規則案第三章第三節に、警察の「ぐ犯調査」権限の規定を新設したことは、問題である。
1.規則案が新設した「ぐ犯調査」に関する規定では、「ぐ犯少年であると疑うに足りる相当の理由のある者、保護者又は参考人」を呼び出し、質問することができるとされ、調査は、「当該少年の性格、行状、経歴、教育程度、環境、家庭の環境、交友関係等」を含め、「詳細に」行われなければならないとされた(30条が準用する20条1項、16条)
ここに「ぐ犯少年」とは、「性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年」(少年法3条1項3号)をいい、本来範囲の曖昧な概念である。さらに、「ぐ犯少年であると疑うに足りる相当の理由のある者」にまで警察の調査対象とするなら、その範囲は無限定に拡大してしまうおそれが大きい。しかも、調査の対象が「保護者又は参考人」にまで広げられ、「家庭の環境、交友関係等」が「詳細に」調査されるならば、国民の生活がすべて警察の監視下におかれることになりかねず、人権侵害を招く危険が大きい。
2.本年5月25日に可決成立した「改正」少年法の国会審議において、政府提出法案に置かれていた「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察官等の調査権限の規定は削除された。ここで、国会の取った立場は、「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察官等の調査権限を否定したものである。
規則案の設けようとしている規定は、すでにこれと相反する判断を下した国会の決定に反して、警察の「ぐ犯調査」権限を国家公安委員会規則の形式で復活させることにほかならず、憲法が国民の代表者で構成する国会を唯一の立法機関と定めた(憲法41条)趣旨に反し、ひいては、各国家機関を憲法と法律で拘束することにより、国家機関による人権侵害を防ごうとする立憲民主主義の精神に背くことになる。
よって、当会は、規則案第三章第三節の「ぐ犯調査」の新設について、警察への「ぐ犯調査」権限の付与には人権侵害のおそれが強く、また規則で「ぐ犯調査」権限を付与することは、国会審議に反して民主主義を否定すると考え、強く反対する。
2007(平成19)年10月10日
滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里