会長声明・決議
国民生活センターの機能充実を求める意見書
去る2007(平成19)年9月27日,内閣府は,「国民生活センターの在り方等に関する検討会」の最終報告書(以下「報告書」という。)を発表した。
国民生活センターは,全国の消費生活センター,消費生活相談窓口のナショナルセンターとして,消費者問題に関する情報の集約,法解釈や判例研究の中心的役割を担っている。近時,悪質商法被害が増加している中で,国民生活センターに期待される役割はさらに重要性を増している。
しかるに,報告書は,ADRの導入など部分的には評価できる部分も含まれるものの,全体としては,独立行政法人の整理合理化計画のもとで,国民生活センターの機能を縮小していくことを主眼としている。現時点においてさえ,国民生活センターが限られた予算や人員の中で,その役割を十分に果たすことが困難であるのに,国民生活センターの機能をさらに縮小することには,強い懸念を抱かざるを得ない。
そこで,当会は,この報告書に対して,以下のとおり意見を表明する。
第1 意見の趣旨
独立行政法人国民生活センターは,消費者の正当な権利の確立のためになくてはならない重要な機構であるが,その重要性にみあった十分な体制を有しているとは言えず,一層の機能充実が求められる。当会は,内閣府が公表した「国民生活センターの在り方等に関する検討会」の最終報告書のしめす国民生活センターの機能縮小には反対であり,国民生活センターについて,さしあたり,次の機能強化策を講じるとともに,センターの一層の機能確保,充実の方向での検討を行うべきであると考える。
- 全国消費生活相談情報ネットワークシステム(PIO-NET)の機能の充実と,製品事故事案,悪質業者事案の公表の権限と手続を法律上明確化すること。
- 消費者紛争に関して,国民生活センターにADR機能を付与すること。
- 商品テストの機能を強化すること。
- 全国の消費生活相談員及び消費者行政職員に対する研修事業を大幅に拡充すること。
- 苦情相談機能を,地方消費生活センターからの問い合わせに対応する「経由相談」にとどまらず,消費者からの直接相談を受け付けるものとし,そのための人的体制を整えること。
第2 理由
1.PIO-NETの機能充実と事案公表手続の法定について
PIO-NETは,全国の消費生活相談窓口に寄せられた相談情報を一元管理し,分析できる重要なツールである。消費者訴訟においても,その情報はしばしば活用され,適正な解決に資するものとなっている。ところが,PIO-NETについて情報集約の法的根拠や苦情等情報の公表の法的根拠について明確な定めがない。
製品事故の多発や,悪質事業者による苦情の多発は,PIO-NETをみれば,一目瞭然である。にもかかわらず,この情報を活用した,事案の公表,事業者名の公開等は,なかなか行われにくいのが現状である。公表権限について明示的法的根拠を持たない現状では,事業者が国民生活センターによる公表処分を不当であるとして争った場合,センターは,直ちに,損害賠償請求訴訟等の矢面に立たされることにもなりかねないことが大きな要因である。
しかし,事案の公表が遅れることは,同種被害の拡大を放置することにほかならない。早急に,事案公表,業者名公表の手続を法定し,センターが,情報の公開をもって同種被害の拡大防止にその力を発揮できるよう,制度を整備する必要がある。
2.ADR機能について
消費者被害事件の解決は,高度に専門的な知見を要し,低廉な費用で迅速な解決を必要とするものである。こうした事案は,裁判制度外のADRによる解決になじむものであり,公正中立かつ専門的知識と情報を有する国民生活センターが,これを担うことが期待される。
消費者基本法25条は,国民生活センターの役割の一つとして,「苦情の処理のあっせん」を定めている。従来実施している紛争あっせんに加えて,より実効性の高いADR制度を導入することが必要である。
3.商品テストについて
最近の食品をめぐる不当表示事件からも明らかなように,また,商品の欠陥等による事故が相変わらず多く発生していることからもわかるように,商品テストは,消費者保護行政の重要な機能の一つである。商品テストは,その性質上公平性,中立性がつよく求められるのであり,事業者や事業者団体に依存せずに独立した立場でテストを行うことが必要である。ところが,地方自治体の商品テストの予算は削減傾向にあり,国民生活センターの商品テストは,さらに重要性を増している。
それにもかかわらず,今回の報告書では,商品テストを外部委託に切り替える案が提示されている。外部委託においては事業者や事業者団体に依存することになり,公平・中立性の要請に反するものとなる。
4.研修事業について
消費者被害案件の解決には,高度の専門知識が不可欠である。ところが,現場の相談員の研修ははなはだ不十分で,多くは,相談員の自主的な研さんの努力にゆだねられているのが実情である。
現在,現場の相談員は,必ずしも十分な回数が保障されているとはいえないにしても,国民生活センターが実施する研修会に参加して,多くの知識やノウハウを会得し,日々の業務に生かしている。現場の相談員の研修の要望に応えることができるのは,国民生活センターが,日常的に多くの知見を集約し,これを活用しているからである。国民生活センター以外に,適当な研修実施機関があるとは思われず,研修事業を外部委託すると,研修の質の低下が危惧されるところである。
国民生活センターの研修は,回数と内容をより充実させ,全国の相談員に十分な研修の機会を提供できるよう拡充されなければならない。
5.直接相談の実施について
報告書は,相談業務は自治体が取り扱い,センターは,直接相談から撤退することを提案している。しかし,消費者被害は,被害者自身から具体的な被害実態の聞き取り調査を行って初めて適切に把握できるものである。消費者ひとりひとりからの,ていねいな聞き取りを積み重ねる中で,はじめて,消費者被害の実態や繰り返される手口,被害に遭う人の心理状態などの把握が可能になるからである。
国民生活センターが,消費者の直接相談を受け付けなくなれば,次第に,消費者被害を理解できない組織に変質してしまうであろう。直接相談の実施は,センターの根幹に関わる問題であって,決して,自治体との分業が可能なものではない。直接相談の廃止には反対である。
第3 結び
福田首相は,所信表明演説の中で,消費者保護のための行政機能の強化に取り組むと述べた。また,現在,多方面で,消費者庁の設置を望む意見も強くなっている。今回の報告書は,こうした流れに逆行するものである。
消費者の正当な利益の保障のためには,国民生活センターの機能,権限を強化することこそが必要である。
2007(平成19)年11月19日
滋賀弁護士会 会長 元永佐緒里