会長声明・決議
司法修習生に対する給費制の存続を求める決議
2010(平成22)年11月1日から、司法修習生に対して給与を支給する制度(給費制)に代えて、修習資金を国が貸与する制度(貸与制)が実施されることとなっている。しかしながら、滋賀弁護士会は、貸与制の実施に反対し、給費制の存続を強く求める。
司法修習制度は、司法試験合格者に対して行われる研修であり、裁判官、検察官及び弁護士(法曹)として必要とされる高度の専門的知識と職業倫理の養成を目的とする。 公務員たる裁判官及び検察官のみならず、弁護士についても、基本的人権の尊重及び社会正義の実現を使命とし(弁護士法1条)、刑事、民事及び家事等の事件処理を通じて司法制度の一翼を担い、国選弁護事件、法律援助事件、各種無料法律相談、人権擁護のための各種委員会活動、公益的事件への取り組みなど、公共性・公益性の高い活動を積極的に行っているものであり、その職務は国民の権利義務に直接関わり、公共的性格を有する。それゆえに、これまで法曹養成のために国家予算が投入され、給費制が維持されてきたのである。
また、司法修習生は兼業が禁止され、修習に専念する義務が課されるところ、給費制は、司法修習生が経済的不安を持たずに修習に専念できるための制度的担保である。
さらに、給費制は、資質と能力があれば、貧富の差を問わず法曹となれる道を保障するものであり、社会の幅広い層から有為で多様な人材を法曹として輩出することに貢献してきた。
2004(平成16)年、裁判所法が改正され、司法修習生に対しては、給費制に代えて貸与制を実施することとされた。この改正は、国の厳しい財政状況を背景として、国家公務員の身分を持たない者に対する支給は異例の取り扱いであること、司法修習は個人が法曹資格を取得するためのものであり受益と負担の観点からは必要な経費は司法修習生が負担すべきであること等が理由として挙げられている。
この点、医師養成制度について見ると、医師は、大半が民間人ではあるものの、国民の生命と健康を守る社会的基盤であることから、2004(平成16)年の医師法改正により、新医師臨床研修制度が導入され、新卒医には2年間の臨床研修が義務付けられた。その研修期間中、研修医には病院から給与が支払われ、国から病院に対しては臨床研修費等補助金が支払われている。そのための国の予算措置は年間約160億円から171億円である。
他方、司法修習生の給費制のために必要な予算は、現状でも約100億円前後であり、医師養成との比較において、法曹養成のために要する予算が過大であるわけではない。また、医師養成のための予算措置も、大半が国家公務員の身分を持たない者に対する支給であると言え、司法修習生に対する給費制のみが異例であるとして廃止されるいわれはない。上記で述べた弁護士の職務の公共的性格に照らせば、その養成は国の責務というべきである。
裁判所法改正にあたっては、衆参両院において、「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、又、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援のあり方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」との附帯決議がなされている。
しかしながら、裁判所法改正以後も、附帯決議で述べられた法曹養成制度全体の財政支援のあり方等に関する協議は十分に行われてきたとはいえない。
現在、法科大学院制度及び新司法試験制度が導入され、法曹を目指す者は、少なくとも2年間の法科大学院教育を受けた後に、新司法試験を受験することとなる。そのため、司法修習生になる以前に、法科大学院の授業料や在学中の生活費等、大きな経済的負担を強いられる。
2009(平成21)年11月に日本弁護士連合会が新63期司法修習予定者を対象に行ったアンケート結果によれば、法科大学院在学中に奨学金を利用したのは、回答者1528名中807名(52.81パーセント)に及び、そのうち具体的な金額を回答した783名の貸与を受けた額は、平均約320万円、最高で1200万円に上っているとのことである。
このような現状で給費制が廃止されれば、司法修習生の経済的負担は一層大きなものとなり、一部の経済的余裕のある者しか法曹になることができないとの事態を招来しかねない。
また、司法試験合格者数が急激に増大してきたことの影響により、弁護士を志望する司法修習生の就職状況や勤務条件は厳しく、給費制廃止により弁護士になるまでに多額の経済的負担を負うこととなった場合、弁護士となって後に心ならずも公益的活動を行う余裕がないとの事態も懸念される。
当会は、2003(平成15)年9月16日付けで、「司法修習生の給費制維持を求める声明」を、2004(平成16)年7月12日付けで、「司法修習生の給費制の堅持を求める会長声明」をそれぞれ出しているほか、2009(平成21)年12月15日付けで、「司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明」を出し、貸与制実施に反対し給費制の復活を求めてきた。しかし、その後も裁判所法改正等の動きがなされないまま、貸与制の実施時期である2010(平成22)年11月1日が目前に迫っており、一刻の猶予も許されない。
よって、当会は、国会、政府及び最高裁判所に対し、司法修習生に対する給費制を存続することを強く求め、ここに決議する。
2010年(平成22年)7月30日
滋賀弁護士会