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会長声明・決議

生活保護基準の引き下げに反対する会長声明

厚生労働省が公表している平成25年度の予算概算要求の主要事項では、「生活保護基準の検証・見直しの具体的内容については、予算編成過程で検討する」とされた。さらに、2012(平成24)年10月22日に開催された、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会財政制度分科会において、生活保護受給者の生活費が受給していない低所得者を上回る「逆転」状態を是正する必要があるとの意見が相次いだなどとして、来年度以降、物価下落に見合った生活保護基準の引き下げが必要との内容を含む答申を行う見込みとの報道がなされている。

同年12月26日に発足した第二次安倍内閣においても、田村厚生労働大臣は、記者会見において、生活保護費のうち日常生活の費用である生活扶助について来年度から数年間かけて最大1割引き下げる意向を示した。

このように、厚生労働省、財務省及び新政権のいずれも、来年度の生活保護基準引き下げ方針を明示したことからすれば、次年度予算において、生活保護基準が引き下げられることが強く懸念される。

しかしそもそも、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の具体化であり、地方税の非課税基準、国民健康保険料・同一部負担金の減免基準、介護保険料・同利用料・障害者自立支援法における利用料の減額基準、公立高校の授業料の減免基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。生活保護基準の引き下げは社会全体への広範な影響を招くことからすれば、当事者を含む市民各層の意見を十分に聴取したうえで、多角的な検討を行い、慎重に決すべきであることは当然である。

この点、生活保護基準についてはこれまで、2011(平成23)年2月以降、社会保障審議会生活保護基準部会において学識経験者らによる専門的かつ多角的な検討が続けられてきた。ところが、2012(平成24)年10月5日の第10回部会では、厚生労働省により、全世帯を所得の低いほうから高いほうに順に各世帯数が等しくなるように十等分して並べた「所得の十分位階級」のうちのもっとも低いグループである第1・十分位層の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証手法が「とりまとめ案」の中で提示され、前記「逆転」状態を強調し生活保護基準引き下げの結論に導こうとする姿勢が露骨に示された。同省のかかる「とりまとめ案」は、部会における議論の蓄積を反映させることなく、生活保護基準の引き下げという結論先にありきで低所得層との比較のみに強く誘導しようとするものであり、学識経験者らによる真摯な検討過程をないがしろにするものとさえ言わざるを得ない。

2010(平成22)年4月9日付けで厚生労働省が公表した「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」によれば、わが国の生活保護の「捕捉率」(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は15.3%~29.6%と推計されている。つまり、生活保護基準を下回る所得しかない世帯のうち実に7割以上が生活保護を利用していないことになる。このように、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない者)」が大量に存在する現状においては、低所得世帯の消費支出が生活保護基準以下となるのは当然のことである。にもかかわらず、低所得世帯の中でも極めて所得の低い第1・十分位層の消費水準との比較を根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、保護基準を際限なく引き下げていくことにつながりかねない。


格差と貧困が拡大し、生活保護の受給者は、昨年9月時点で213万人を越えている。そのような状況の中、最後のセーフティネットとしての生活保護の重要性は増すばかりであるところ、現在の不十分な検討状況において生活保護の基準を切り下げることは、市民の最低限度の生活が守られないばかりか、ナショナルミニマムの崩壊を招きかねず、決して許されない。


よって、当会は、現在の検討状況に鑑み、来年度予算編成において生活保護基準を引き下げることについて、強く反対する。


2013(平成25)年1月16日
滋賀弁護士会
会長  荒川 葉子