会長声明・決議
パリ原則に基づき政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議
当会は、わが国における人権保障を推進し、また国際人権基準を完全実施するための人権保障システムを確立するため、国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に合致し真に政府から独立した国内人権機関を速やかに設置することを、政府および国会に対して強く求める。
以上のとおり決議する。
2013(平成25)年3月29日
滋賀弁護士会
決議理由
国内人権機関とは、裁判所とは別の、人権侵害からの救済と人権保障を推進するための国家機関である。裁判よりも簡易・迅速に人権侵害からの救済を図る必要があること、及び人権保障推進のための提言や教育の機能を裁判所に求めることはできないことから、国連は、国内人権機関の設置を世界各国に求めている。
わが国も、1998年の国際人権(自由権規約)委員会による勧告以降、国内人権機関の設置勧告を何度も受けており、政府は本年3月14日の国連人権理事会で、国内人権機関の設置勧告をフォローアップすると表明したところである。
ここで、世界中で国内人権機関のあり方の基準となっているのが、1993年の国連総会で承認された「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆるパリ原則)である。具体的には、1.国内人権機関には、人権の促進・擁護のため、できる限り広範な職務が与えられること、2.国内人権機関は、政府・議会等に対し、自らの権限で意見・勧告等をすること、3.構成員の任命は、人権の促進・保護にかかわる(市民社会の)社会勢力からの多元的な代表を確保できる手続に従って行われること、4.国内人権機関が、政府からの独立性に影響しかねない財政統制のもとに置かれることのないよう、自らの職員と土地家屋を持つことを可能とする十分な財源をもつこと、5.国内人権機関の真の独立にとって不可欠である構成員の安定した権限を確保するため、構成員は一定の任期を定めた公的な決定によって任命されること、等が必要とされる。
この観点からみると、現行の法務省監督下の人権擁護委員制度では政府からの独立性が認められず、2002年に政府が国会に提出した「人権擁護法案」も、人権委員会が法務大臣の管轄下にあるとされる等、パリ原則が求める独立性を満たすものではなかった。
また、2012年11月に政府が国会に提出した「人権委員会設置法案」(同月衆議院の解散により廃案)、でも、人権委員会による調査手続の対象となる人権侵害行為を「司法手続においても違法と評価される行為」に限定しており(法務省政務三役「人権委員会の設置等に関する検討中の法案の概要」)、その権限に著しい制約が加えられていたこと、人権委員会を法務省の外局として設置するとしており、拘禁施設や捜査機関を抱える法務省内局との関係を完全に分離することができないこと、事務局の事務を法務局長・地方法務局長に委任することができる旨定めており、政府からの独立性の確保が不十分であること等の問題点が指摘されてきたところである。
当会では、今までにも、人権侵害救済申立てに対する調査を行い、必要な警告・勧告・要望等を行う等の取り組みを通じて、人権擁護に真摯に取り組んできたところである。しかし、調査を行うための十分な組織的基盤が存在しないこと、調査権限が任意のものにとどまること等から、その活動には一定の限界があったことも否定できない。
そこで、当会は、わが国における人権保障を推進し、また国際人権基準を完全実施するための人権保障システムを確立するため、パリ原則に合致し真に政府から独立した国内人権機関を速やかに設置することを、政府および国会に対して強く求めるものである。
以上