会長声明・決議
不安定雇用拡大のおそれのある労働者派遣法の改正に強く反対する会長声明
政府は、2014(平成26)年3月11日、労働者派遣法の一部を改正する法律案(以下、「改正案」という。)を国会に提出することを閣議決定し、今国会で成立させようとしている。
滋賀弁護士会は、政府が成立させようとしている改正案は、労働者派遣の無制限な拡大を招き、不安定な雇用を拡大させるおそれがあることから、これに強く反対する。
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現行法は、派遣期間について専門26業務に限定して派遣期間の制限をしないで、その他の一般業務について「原則1年間、最大3年間」としているところ、改正案は、大要、専門26業務という区別を廃止して、①期限の定めのなく派遣元で雇用されている無期派遣労働者については、派遣期間の制限をしない、②期限の定めをして派遣元で雇用されている有期派遣労働者については、現行法の業務ごとではなく、派遣労働者個人ごとに最大3年間の派遣期間の制限をするという内容である。
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そもそも労働基準法6条が中間搾取を禁止し、職業安定法44条が労働者供給事業を禁止していることから、使用者は労働者を直接に雇用することが大原則である。1985(昭和60)年に制定された労働者派遣法は、かかる直接雇用原則を前提としつつも、例外的に専門的な知識等を要する業務について、労働者派遣を許容した。現行法においても、正社員が一時的・臨時的雇用である派遣労働者に置き換えられると不安定雇用を増大するおそれがあるため、労働者派遣の利用を制限すべく、派遣期間の無限定は、専門26業務に限定している。
しかるに、改正案は、かかる専門26業務でなくとも、あらゆる業務において、3年ごとに派遣労働者を入れ替えさえすれば、無期限に派遣労働者を利用することができるものであり、一定の条件はあるものの、労働者派遣制度のほぼ全面自由化に等しい内容といえる。
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かかる改正案が成立すれば、派遣労働の恒常的利用は拡大し、労働者派遣による正社員の代替防止という労働者派遣法の趣旨は没却される。
そして、既に我が国において約4割を占める非正規労働者の増大によって、正規労働者と非正規労働者の格差は進展する。
また、2008(平成20)年11月の金融危機による世界的不況によって、我が国では、製造業を中心に多数の非正規労働者が切り捨てられ、仕事ともに生活の場を失い、ネットカフェに居住するという社会問題が生じた。
このいわゆる「派遣切り」は、非正規雇用の不安定さ、非正規労働者を「ひと」ではなく「もの」のように切り捨てることを明らかにし、我々に非正規労働の増大は仕事だけでなく人間の尊厳をも奪うものであって、市民の生存権ひいては基本的人権を侵害する社会的に危いものであることが明らかになった。
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改正案は、多くの不安定雇用で低収入の労働者を生み出し、格差の拡大・固定化によって社会の安定を害し、ひいては基本的人権の侵害をもたらすおそれがあるため、我々弁護士は、基本的人権を擁護するため、改正案に反対しその改善に取り組まなければならない。
よって、当会は、今回の改正案に強く反対するとともに、労働者保護ひいては格差是正に資する労働者派遣法の抜本的改正を行うように求める。
以上
2014(平成26)年5月20日
滋賀弁護士会
会長 近藤公人