会長声明・決議
商品先物取引法における不招請勧誘禁止の緩和に抗議する会長声明
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商品先物取引法第214条第9号は、商品先物取引業者が不招請勧誘(消費者から勧誘の要請がないのに、業者が訪問や電話により、一方的に行う勧誘)を行うことを原則として禁止し、「委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為」については、例外的に不招請勧誘を許容することとしている。
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農林水産省及び経済産業省は、2015(平成27)1月23日、商品先物取引法施行規則の一部を改正する省令(以下、「本省令」という。)を定め、商品先物取引における不招請勧誘の禁止を緩和することを公表した。
当会は、2014(平成26)4月5日付けで農林水産省及び経済産業省から公表及び意見募集がなされた商品先物取引法施行規則の改正案に対し、同月25日、「『商品先物取引法施行規則』及び『商品先物取引業者等の監督の基本的な指針』改正案に対する意見書」を発表し、不招請勧誘禁止の緩和に強く反対する意見を表明した。
本省令は、当初の改正案を若干修正し、商品先物取引法施行規則第102条の2を改正して、ハイリスク取引の経験者に対する勧誘のみならず、顧客が65歳未満で一定の年収若しくは資産を有する者である場合に、顧客の理解度を確認するなどの要件を満たした場合の当該顧客に対する勧誘を、不招請勧誘禁止の例外とする規定を盛り込んだものである。
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しかし、年齢が65歳未満であることや、一定額以上の年収や資産を有することと、商品先物取引というハイリスクな取引の危険性を理解できることとの関連性は低い。さらに、顧客の年収や資産の確認方法として申告書面を差し入れさせたり、書面による問題に解答させて理解度確認を行うなどの手法については、現在も多くの商品先物取引業者が事実上同様の手法を採っているところ、その中で、業者が顧客を誘導して事実と異なる申告をさせたり、正答を教示するなどの行為が蔓延し、被害が生じていることに鑑みれば、年収や理解度確認などの要件を加えたとしても、消費者保護として十分に機能するものとは到底評価できない。
しかも、本省令が施行されれば、顧客が上記要件を満たすかどうかの確認行為自体は、業者による電話・訪問等に際して行われることになる。その結果、上記要件を満たしていない顧客に対しても、事実上、勧誘行為が行われることになる。とすれば、商品先物取引契約の締結を目的とした勧誘が、まさに不招請で行われることになるのであるから、本省令は、不招請勧誘を事実上解禁するものにほかならない。すなわち、本省令は、不招請勧誘を原則禁止とした商品先物取引法第214条第9号を骨抜きにするものであり、法律の委任の範囲を超える違法なものといわざるを得ない。
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そもそも、商品先物取引法の不招請勧誘禁止規定は、長年、商品先物取引による深刻な被害が発生し、度重なる行為規制強化の下でもなおトラブルが解消しなかったため、与野党一致の下、2011(平成23)1月施行の改正法により導入された経緯がある。そして、不招請勧誘の禁止は、商品先物取引による消費者被害の抑止に大いに寄与してきた。
にもかかわらず、今回の規則改正によって、不招請勧誘を部分的にせよ容認することは、消費者保護に携わる関係者の多年の努力により整備されてきた消費者保護体制を大きく後退させるものであって、到底看過することはできない。
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昨年4月の意見募集に対しては、当会のみならず、日本弁護士連合会、近畿弁護士連合会、その他多くの弁護士会や弁護士会連合会、消費者団体から反対意見が提出されているが、今回の規則改正は、これらの多くの国民の意見を蔑ろにするものといえる。
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よって、当会は、商品先物取引法における不招請勧誘禁止を緩和することに抗議するとともに、本省令を施行することなく直ちに廃止することを強く求める。
2015(平成27)年3月24日
滋賀弁護士会
会長 近藤公人