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会長声明・決議

労働法制の審議の公正と「高度プロフェッショナル労働制」の撤回を求める会長声明

本年2月13日、厚生労働省労働政策審議会(以下「労政審」という。)は、「今後の労働時間法制等の在り方について」との建議をとりまとめた。この建議は、「高度プロフェッショナル労働制」と称する、職務の内容や年収の要件を満たした労働者につき労働時間規制の適用除外とする制度の創設や、裁量労働制及びフレックス制の規制緩和などを内容とする。この建議を受けて、労働基準法改正案が本年の通常国会において提出される予定である。

しかし、上記建議が検討された労政審労働条件分科会においては、労働委員から「長時間労働を誘発する懸念が払拭できない」など、新制度に反対する意見が繰り返し述べられていた。それにもかかわらず、こうした労働者側の意見が反映されないまま、本年1月16日に厚生労働省が発表した骨子案に沿った建議がなされたものである。公益委員案として作成された骨子案に沿って昨年1月29日に労政審労働力受給制度部会が建議した「労働者派遣制度の改正について」と同様の経緯を辿っている。

日本弁護士連合会は、本年2月27日、労働者委員の意見が反映されない建議が連続する背景として、国際労働機関(ILO)が求める、政府委員・労働者委員・使用者委員の三者構成による効果的な協議が実行されず、使用者側の意見のみが反映された政策方針が先立って閣議決定されているという問題があることを、「公労使三者構成の原則に則った労働政策の審議を求める会長声明」の中で指摘した。

このように、冒頭の建議には国際労働機関(ILO)が求める公正なプロセスを経ずに作成されたという手続的な問題がある上に、その内容面においても、労働者の生命・健康に対する弊害をもたらしかねない問題を含んでいる。

そもそも、労働基準法は1日8時間、1週40時間と労働時間の上限を定め、これを超えて労働させることについて罰則をもって禁じている。その立法趣旨は、労働者の長時間労働を防止して労働者の健康を守るという点にあることを忘れてはならない。労働基準法が定める労働時間を超えて労働者を働かせることは、 いわゆる36協定の締結を経ずにはできず、その場合でも使用者が割増賃金の支払を義務づけられているのは、その立法趣旨を達成するためである。ところで、総務省「就業構造基本調査」によれば、2012(平成24)年時点において、正規の職員・従業員であって、かつ、年間就業日数が200日以上の雇用者のうち14%の労働者が、過労死ラインとされる週80時間を超えて週86時間の長時間労働をしている現状にある。かかる現状の下、新制度を導入して労働者の長時間労働に対する規制を撤廃する方向に動き出すことになれば、すでに恒常化している長時間労働を適法化し、労働契約の基本原則であるワーク・ライフ・バランスを損なわせ、ひいては過労死・過労自殺の危険は増大する。

さらに、将来、対象範囲が拡大される恐れが大きい。新制度の対象業務要件及び年収要件は、「省令で規定する」とされている。しかし、省令による規定では、以下の理由で全く歯止めとはならない。いわゆる労働者派遣法が1985(昭和60)年12月に13業務を対象に制定された後、1996(平成8)年には   26業務に対象が拡大され、1999(平成11)年7月には製造業等を除き対象業務の制限が撤廃され、さらに2003(平成15)年には製造業への派遣も解禁された。このような我が国の労働者法制の歴史をみれば、ひとたび新制度が法律化されてしまえば、以後国会で議論されることなく省令で、なし崩し的に対象業務要件は広がり、年収要件は引き下げられ、適用対象労働者の範囲が拡大していく流れがあることは明らかである。

しかも、新制度における健康確保の措置は実効性がない。新制度においては、使用者に対して健康確保の措置を講じることとされているが、使用者が労働時間管理義務に違反しても罰則はない。そして、使用者が、選択的に、一定数の休日を設けるか、一定の時間以上の休息時間を与えさえすれば、労働者に対して長時間労働をさせることが可能である。これらが長時間労働の歯止めとして機能するものとは言い難い。

そこで当会は、労働法制の改定については、労働者側の意見をしっかりと反映した公正な審議を求めるとともに、「高度プロフェッショナル労働制」の撤回を求める。

2015(平成27)年3月24日

滋賀弁護士会
会長 近藤公人