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会長声明・決議

少年審判書の全文掲載に対する会長声明

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本年4月10日に発売された「文藝春秋」5月号(株式会社文藝春秋発行)において、いわゆる「神戸連続児童殺傷事件(以下「本事件」という)」の少年審判における審判書の全文が、同紙に掲載された(以下「本件掲載行為」という)。

この点、本件掲載行為に対しては、既に神戸家庭裁判所が、記事を寄稿した記者、審判書を提供した元裁判官である弁護士と株式会社文藝春秋に対し、裁判官が退官後も負う守秘義務に違反する行為などにあたるとして抗議文を送付したところである。

本件掲載行為については、元裁判官による守秘義務違反という司法制度の根幹を揺るがす重大な問題があることは当然であるのに加えて、以下の点においても極めて問題がある。

2 少年法の制度趣旨を没却し、少年のプライバシーを侵害する点
(1)
少年法は、少年の健全な育成(少年法第1条)のため、未成熟な少年を保護し、将来における更生を可能とすることを目的として制定されているところ、本件掲載行為は、成人の刑事裁判とは異なる制度設計のもと、少年審判制度が作られた法の趣旨に反する行為である。

すなわち、少年法は、更生した少年が社会に戻る際の妨げとならないように、非行したこと自体を秘密とする必要があること、また、少年の抱えている問題点・矯正教育の方法を踏まえ、処分を審判するために、少年の性格、全生活史、その家族のプライバシーに関わる事項、事件に至った経緯・内容等のプライバシーの多岐に渡る事実を少年や家族、関係者等から聴取する必要があることから、少年法では成年とは異なる特別の規定が設けられている。少年審判の非公開(同法第22条第2項)、推知報道すなわち少年を特定する事項の報道の禁止(同法第61条)、記録の閲覧制限(少年審判規則第7条)等がこれにあたる。

本件掲載行為は、審判の中で認定された詳細な事実関係が記載されている審判書の全文掲載であり、本来公開を予定していない少年のプライバシーに関わる事実が詳細かつ網羅的に公衆に晒されるものである。本件掲載行為は、少年法が少年の健全な育成のために定めたこれらの法制度の趣旨を没却し各条文に明らかに反する行為であり、かつ、少年のプライバシーを著しく侵害するものである。

特に、本事件は、事件後約18年が経過し、当時の報道の記憶も薄まりつつあるところに行われたものである。本件の審判書は結果の重大性もあり、審判書の内容は他の事件と比しても非常に詳細であって、これが公表されることによるプライバシー侵害が特に著しい。たとえ事件当時公開された事実が含まれていたとしても新たなプライバシー侵害と評価できるものであり、全体として権利侵害にあたる。

また、本件掲載行為は、少年の実名は伏せてあるものの、本事件に関するこれまでの報道及び情報と併せると、少年を本事件の本人であると容易に推知することができるものである。

(2)
また、世界195か国(本年1月時点)で締結されている子どもの権利条約の第40条第2項も、上記のような観点から手続の全ての段階において少年のプライバシーを尊重しなければならないとしており、本件掲載行為は同条にも違反している。

3 被害者遺族のプライバシーを侵害する点
また、本件掲載行為は、本事件から約18年を経過した現時点においてなされたものであり、被害者遺族の心情を無視し、遺族の当時の経験や記憶を改めて想起させるものであり、事件内容が詳細に世間に知れ渡ることにより被害者遺族に苦痛を与え、平穏な生活を送ることを害し、更なる被害を生むものである。

特に、本件掲載行為に関し、株式会社文藝春秋は、被害者遺族に対し、事前に何らの掲載に関する確認も行わずに、全文掲載を行ったものであり、その被害は甚大である。

4
以上のとおりであり、当会は、本件掲載行為を行った株式会社文藝春秋に対し、強く抗議するとともに、今後同様の行為を行わないよう強く要請する。

2015(平成27)年5月19日

滋賀弁護士会
会長 中原淳一